『あたらしい大麻入門』


 1948年に施行された大麻取締法が、75年ぶりに2023年12月改正された(2024年12月施行)。大麻の栽培免許に関する法律(大麻栽培法)と薬効成分を管理する法律(麻薬及び向精神薬取締法)とに分けて運用されることが大きな改正点である。後者によって、医療大麻の解禁と大麻使用罪の適用がなされた。

 法改正の当初の目的は医療大麻の合法化にあり、大麻の部位規制から「ハイ」と呼ばれる精神状態を引き起こすTHC成分規制へと転換すべきであった。しかし、最終的に、部位規制とTHC成分規制の2本立てとなったため、大麻使用に対して厳しい規制がしやすくなった。

 本書は、第1章「大麻取締法改正における主な変更点」、第2章「医療大麻合法化の流れ」、第3章「医療大麻とはなにか」、第4章「薬物政策としての大麻」、第5章「大麻裁判実例と人権問題」、第6章「産業大麻がもたらす地球の環境改善」の全6章からなる。

 第1章で、前述したやや難解な法改正の全体像を把握することができる。大麻は有害だ、その使用を罰することは当然だというキャンペーンに乗ってしまったマスメディアは、大麻使用罪の「創設」と大きく報道した。しかし、実は「創設」ではなく「適用」だったというのである。

 第2章と第3章は、今回の法改正の目的であった医療大麻の合法化について詳しい。近年、欧米諸国では大麻成分の研究が進み、従来有害だとされていた大麻がてんかん治療や末期ガン患者の痛み止めなどに有用であることが徐々にわかってきた。世界ではすでに医療大麻は合法化されている。この歴史と日本国内での医療関係者の大麻合法化の動きを紹介する。

 第5章では、大藪大麻裁判をはじめこれまでの大麻裁判を検討する。弁護側が大麻の「有害性」や「依存性」を科学的に示せと訴えても何ら証明しようとしない検察、それを容認する裁判の実態が浮彫りにされている。これまで数々の大麻裁判を支援してきた筆者の、大藪大麻裁判を「最後」の大麻裁判にしたいという意気込みがひしひしと伝わってくる。

 大麻は、古くから日本人の生活や神道儀礼に密接に結びついていた。しかし、戦後、GHQによって大麻草栽培が全面規制され、現在、大麻生産農家はほぼ壊滅状態にある。しかし、大麻文化の復権を目指して、ヘンプアパレルやヘンプコンクリートなど産業大麻の新たな可能性を見出した人々がいる。その活躍を紹介して終章(第6章)となる。

 今回の法改正は多くの問題点を抱えている。改正法の「附則」に5年後の直しが唱われている。筆者は、見直しの焦点は、大麻の使用罪による厳罰化の精査だと訴える。そのために、私たちは何を考え、何をしたらよいか。本書はそのヒントを与えてくれる、「あたらしい」、「やさしい」入門書である。

(な)


※本サイトには、甲南大学名誉教授・園田寿氏による連載「大麻使用を新たに罰する改正法の仕組みと問題点」がありますので、こちらもご覧ください。

(2025年02月17日公開) 


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