レイシャル・プロファイリングが取り上げられるようになったのは、最近のことである。2021年1月、東京駅構内で「ドレッドヘアーは薬物を持つ人が多い」という理由でミックスの男性に対して職務質問がなされた。その動画がSNS上で流れ、大きな注目を集めたことがきっかけだという。そして、同年12月、アメリカ大使館が「レイシャル・プロファイリング事案が発生している」とX(当時、Twitter)で異例の警告を発したことから、国会でも取り上げられた。国家公安委員長は、「不適切な言動」の存在は認めているが、「差別的意図はなかった」と答弁している。
レイシャル・プロファイリングがとくに顕著に表れるのが「職務質問」の場面である。
しかし、警察関係者は、レイシャル・プロファイリングの存在を認めない。大藪大麻裁判でも、薬物事犯に切り替えたことを問題にしている。
弁護人は、大藪龍二郎さんへの職務質問、所持品検査、現行犯逮捕の一連の捜査過程で大麻取締法の嫌疑に切り替えた理由の一つに大藪さんの服装が「ラテン系」であったことで、レイシャル・プロファイリングの疑いがあると強く違法性を主張していた。
プロファイリングという言葉は、輪郭とか人物評といった「profile」を原語とするもので、近年、とくに犯罪捜査にあたって統計的な経験や犯罪データと心理学の両面から犯人像を推理し、年齢や性別・人種、その生活態度などを特定していく手法のことをいう。ここには、ともすれば人権侵害する権力の行使を未然に防ぎ、とりわけ警察権力の適正さを担保するねらいがある。しかし、本書の表題に含まれているプロファイリングはそうした本来の意義とは異なり、いわば差別を正当化する手段とでも言うべきものである。また、「レイシャル」とは民族、人種を指すのが定番であるが、本書においては「外国人」を言う。しかも、舞台(対象)は現代のわが国であり、現在進行形の事実である。
本書は、編著者の宮下萌弁護士がいうように「レイシャル・プロフィリングを考えるうえでの包括的」(あとがき)な書で、2部からなっている。第1部は、レイシャル・プロファイリングの定義などを明らかにした序論に始まる。次いで、わが国におけるレイシャル・プロファイリングの実態について、東京弁護士会による「2021年度外国にルーツをもつ人に対する職務質問(レイシャルプロファイリング)に関するアンケート調査」やさまざまな実例、主だった裁判の動向を紹介、分析する。第2部では、第1部を踏まえてわが国におけるレイシャル・プロファイリングの今日的な問題点を刑事政策や哲学などさまざまな観点から批判的に分析する。
本書を契機として、日本におけるレイシャル・プロフィリングに関する実態分析やその防止のための方策の研究が発展することを期待する。
(ま)
(2024年07月17日公開)