日本では、企業など組織がどんなに大きな事故を起こしても、その刑事責任は問われない。現在の刑事司法制度では、刑法に「組織」を罰する条文がないため、責任の所在が多くの部署に分散する組織が引き起こした事故を裁くことには限界がある。事故によって、尊い命が奪われたにもかかわらず、誰も法的な責任を課せられないということでは、遺族は納得できない。本書は、誰も責任を取らない無責任社会を変え、本当に安全な社会を実現するために「組織を罰する法律」(「組織罰」)の必要性を訴えるものである。現行法の限界を分析し、組織罰の具体的なイメージと実現への展望を提言するはじめての書。
はじめに………大森重美 |
◎はじめに
現代社会では、企業や法人などの組織体が事業活動を活発に展開している。その一方で、大規模かつ複雑になった組織体の活動のもと、大事故の発生が後を絶たない。
現在の日本では、組織がどんなに大きな事故を起こしても、その刑事責任は問われない。刑法に組織を罰する条文がないからである。個人しか訴えられない現在の刑事司法制度では、責任の所在が多くの部署に分散する組織が引き起こした事故は裁けない。明治時代につくられた刑法の限界が明瞭になっていると私たちは考えている。
事故によって、尊い命が奪われたにもかかわらず、誰も法的な責任を課せられないということでは、遺族は納得できない。誰も責任を取らない無責任ともいえる社会を変え、本当に安全な社会を実現するために「組織を罰する法律」すなわち「組織罰」が必要と考え、私たち遺族は「組織罰を実現する会」を立ち上げた。
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「組織を罰する法律」は、アメリカ・イギリス・フランスなどの諸外国にはすでに存在している。これが実現すれば、組織そのものの刑事責任を問えることになり、利益優先の経営者の意識や組織構造を根本から変えていく手がかりとなる。それは、組織事故の再発防止・未然防止のための抑止力となり、安全な社会の実現に繋がっていくと強く思っている。
安全な社会の実現を目指して「組織罰を実現する会」を立ち上げて、4年ほど経ったが、私どもの力不足もあり、まだまだ社会に「組織罰」に関する理解が広まっていない。
そこで、「組織罰」を多くの方々に知っていただくために、遺族や会の顧問の先生方の協力を得て、このブックレットを発刊することにした。
この小冊子が、日本社会をより安全にしていくための一助となることを願っている。
組織罰を実現する会代表 大森重美(JR福知山線事故遺族)
(2021年04月15日公開)