宮本康昭・大出良知と両名の共著という形をとっているが、内実は宮本の法曹人人生についての総括本であり、大出がインタビューアーで宮本がこれに応えるという対談形式で全編が通されている。第1部では、宮本が判事補時代に味わった不当な再任拒否(1971年)にまつわる、その予兆から最終的に‘仲間’の趨勢を見届けた後の退官までの経緯について、残りの部分では弁護士となった以降かたむけた司法改革への関わりについて、裏話も含めてその詳細が披露されている。
再任拒否の不当性は、今日の学術会議の任命拒否と同様、任命権があることのみを根拠に行なったというだけでも明らかであるが、その当事者にされた本人が終始冷静かつ客観的(?)にこれに対処し、数々の嫌がらせを受けながらも簡裁判事補に留まり、また再任拒否を試さず(?)退官した判断などは一廉であり、こうした問題にあまり触れずに平賀書簡事件(1969年)を学生に語ってきた自分が恥ずかしい。
さらに、司法改革というと被疑者国選弁護制度、裁判員裁判制度、裁判外紛争解決手続(ADR)云々と出来上がった制度ばかりに目がいくが、本書の第2部以降はこうした制度改正をいかに勝ち取ったか、それにいかに宮本が策士顔負けに最高裁、法務省や、ときには政権与党とも絡んで成し遂げたかが語られていて面白い(失礼)。しかも最終章にかけて示されている、司法改革の素となっている‘司法の危機’に対する危惧の表れとそれに対する改革への‘仲間’の動員を呼びかけるなど、宮本の司法改革への熱さを学ばされた一冊である。
(ま)
(2021年05月19日公開)