第22回(2025年)
[論評]
第22回季刊刑事弁護新人賞には、全国各地から他薦・自薦を含めて合計12名の応募があった(札幌1名、千葉1名、東京1名、神奈川1名、愛知1名、三重1名、滋賀2名、大阪3名、佐賀1名)。臆することなく、挑戦してくださったみなさまには改めて敬意を表したい。どのレポートにも、経験年数が浅いということを引け目に感じることなく、堂々と検察庁や裁判所、警察署などと向き合い、依頼者のために何としてでもよい弁護活動を行おうとする姿が報告されていた。われわれ選考委員も、みなさんのレポートに目を通すことが、大きな刺激となったことは間違いない。その意味でも、応募していただいたことに心から感謝する次第である。
さて、そのようなレポートのなかでも、出色のできだったのが、最優秀賞を獲得した竹下順子さん(佐賀県弁護士会)のレポートである。これは、わが子の腕が骨折していたことから虐待を疑われて結局傷害罪で起訴されてしまった被告人を、虐待ではなく別の原因で骨折が生じたのだと主張し続け、2年7カ月にわたり熱い弁護活動を繰り広げて、最終的に一審無罪判決、検察官控訴による二審控訴棄却を勝ち取った事案である。弁護活動においては、検察側の協力医の話に納得せず、骨折が生じるあらゆる原因と可能性を考え、相手が病院であろうが専門家であろうが、各方面に体当たりでぶつかっていって、救急外来での研修医の処置の際に骨折が生じた可能性があるという真相にたどり着いた事案である。自身の協力医を見つけ出し、協力医と強い信頼関係を築き上げたことがこの結果に繋がっており、その一連の弁護活動は最優秀賞にふさわしいものであった。
また、優秀賞に選ばれた拝地旦展さん(大阪弁護士会)のレポートは、「被疑者ノートを読まれた」という被疑者からの申し出に真摯に向き合い、準抗告、特別抗告、移送申立て、勾留理由開示、抗議書、とあらゆる手段をとって、被疑者の黙秘権と秘密交通権を守り抜いたという事案である。被疑者ノートを通じた一連の抗議活動が被疑者との信頼関係の構築に繋がり、被疑者段階で完全黙秘を貫かせることに成功し、不起訴処分の獲得につながった。「被疑者ノートを読まれる」という刑事弁護における、あってはならない出来事にとことん向き合おうとする姿勢が選考委員会のなかで高評価であった。
そして、特別賞に選ばれた松本亜土さん(大阪弁護士会)のレポートは、他のレポートとは趣を異にし、女性の被疑者・被告人が、留置施設においてTシャツ型ブラトップの貸し出しを受けることができるよう、全国的な活動を行っていることについての報告であった。若手であっても、女性の人間としての尊厳を守るために、あたりまえを実現するために臆せず精力的に活動する姿は、全国の弁護人にとっても励みになるものと感じ、是非とも読者に紹介したいと考えて特別賞に選定したものである。
総じていえることは、いずれのレポートも刑事弁護人としての情熱に溢れたものであった、ということである。こういった若手弁護士が、熱意に溢れた活動を行うことが、わが国の刑事司法の在り方を少しでも良い方向に変えていくのではないかと期待せずにいられなかったところである。
*今回の選考委員は次のとおり(五十音順)。安部祥太(関西学院大学准教授)、市川耕士(弁護士・高知弁護士会)、左近麻奈美(弁護士・愛知県弁護士会)、高橋佳子(弁護士・愛媛弁護士会)、松本浩幸(弁護士・東京弁護士会)、宮崎翔太(弁護士・広島弁護士会)。
*本賞は、株式会社TKCと刑事弁護オアシスに協賛をいただいております。