第21回(2024年)
[論評]
第21回季刊刑事弁護新人賞には10名から応募があった(東京4件、神奈川1件、愛知2件、大阪3件)。果敢に挑戦してくれた応募者の皆さんには敬意を表したい。いずれの応募も、新人弁護士として生の事件に体当たりし、結果を求めて必死に闘った様子が滲み出ていた。
選考会議の結果、最優秀賞に輝いたのは、西愛礼さんである。この事案では、スナックで、被告人が、被害者に対し、拳骨で顔面を殴る暴行を加え、左眼窩底骨折等の傷害を負わせたという傷害の公訴事実が争われた。被害者供述の信用性が争点となったが、その弾劾に見事成功し、無罪を獲得した。選考会議では、西さんが警察官作成の現場見取図の記載に違和感を抱き、実際に現場に足を運んで検証・実験した結果、被害者の供述する態様での犯行が困難であることを突き止めた点が選考委員を唸らせた。その上で、相弁護人との間でブレインストーミングを繰り返し、明確なケースセオリーを打ち立てて、実際の訴訟活動に落とし込んでいった点が高く評価された。特に、供述心理学の知見等も取り入れながら被害者供述の弾劾セオリーを緻密に組み立てたことにより、反対尋問によって勝敗を決した点は、他のレポートには見られない優れた点であった。
次に、優秀賞に輝いたのは、湯浅彩香さんである。この事案では、車同士の走行トラブルを発端に、被告人が、相手方に対し、持っていたモンキレンチを複数回振り下ろしてその頭部を殴るなどし、左頭頂骨外板陥没骨折等の傷害を負わせたという傷害の公訴事実が争われた。第一審から正当防衛の成否が争われていたものの、原判決は正当防衛の成立を認めず有罪とした。控訴審で記録を読んだ湯浅さんは、原判決の事実認定は正当防衛を否定するために都合のよいところを恣意的にピックアップしていると感じたという。そこで、湯浅さんは、弁護団会議で、原判決の証拠評価の不合理を示すために、車両をモンキレンチで殴打する検証・実験をすることを提案し、実際に繰り返し検証・実験をした。こうした創意工夫が積み重なり、控訴審での逆転無罪につながった。選考会議では、実際に検証・実験を繰り返し、その結果を踏まえた上で控訴趣意書の作成や控訴審での訴訟活動に取り組んだ点が高く評価された。
いずれのレポートも、刑事弁護の基本を大切にしている。批判的な視点から証拠を検討し、事実を究明しようと創意工夫を凝らしている。刑事弁護人には、自らの目、自らの耳、自らの足を使って真相に迫ろうとする姿勢がやはり欠かせない。二人のレポートは、こうした刑事弁護の基本を改めて思い起こさせてくれる優れた内容だった。最優秀賞、優秀賞に相応しい。次回も、熱意に溢れ、創意工夫に富んだ新人賞候補のレポートがたくさん集まることを期待したい。
* 今回の選考委員は次のとおり。安西敦(弁護士・京都弁護士会)、大橋君平(弁護士・東京弁護士会)、松本浩幸(弁護士・福岡弁護士会)、宮村啓太(弁護士・第二東京弁護士会)、渕野貴生(立命館大学教授)、北井大輔(本誌編集長)。
* 本賞は、株式会社TKCにご協賛いただいております。