18(2021年)

[最優秀賞]

該当者なし

[優秀賞]

常習傷害の一部訴因について犯罪の証明がないとされた事例

飯田貴大いいだ・たかひろ千葉県弁護士会・71期

暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件

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[優秀賞]

諦めない弁護活動の先に

ベロスルドヴァ・オリガOlga Belosludova第二東京弁護士会・72期

覚醒剤取締法違反被告事件

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[論評]

 第18回季刊刑事弁護新人賞は、全国から6件の応募があり、2020年10月24日に選考委員会が開催されました。応募件数としてはやや寂しい感じもしましたが、事件の大小にかかわらず熱心な弁護活動の報告が多数あり、選考委員会の中でもさまざまな意見が出ました。選考委員会での活発な議論の結果、本年度は、優秀賞2名が選出されました。

 優秀賞に選ばれた飯田貴大さん(71期、千葉県弁護士会)は、多数の暴行・傷害行為について暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴された事件について、その一部訴因について実質的に一部無罪の判断を勝ち取った事例を報告してくれました。量刑事件と否認事件が混在する事件で、方針決定などに悩みながらも弁護人にできる最善を模索した様子が語られています。捜査段階での活動、起訴後の証拠開示により浮かんでくる疑問点、現場検証によって浮かび上がってきた違和感、こうした公判までの綿密な準備をもとにした公判での弁護活動が結果につながったケースだといえます。依頼者が否認しているのは多数ある事件のうちの一つだからと妥協せず、弁護人としてやるべきことを怠らず、あるべき判決を勝ち取ったこの報告内容は、同世代の弁護士にとって大変勇気づけられるものだと思います。

 もう一人の優秀賞には、ベロスルドヴァ・オリガさん(72期、第二東京弁護士会)が選ばれました。オリガさんは、初めて担当した国選事件である覚醒剤自己使用のケースにおいて、社会福祉士やダルクなどと連携して熱心な弁護活動を行った事例を報告してくれました。同種前科での服役からの出所2日後の再犯であったにもかかわらず、一部執行猶予判決を獲得するという成果をあげているケースです。社会福祉士と連携しながら、刑務所でのCAPAS診断結果の照会、過去に措置入院をしていた病院の発見とカルテ照会などを行い、具体的な更生支援計画を作成していく過程が報告されています。諦めずに熱心な弁護活動を行うことによって、裁判官からは適切な判断を引き出し、これまで再犯を繰り返してきた依頼者からも信頼を勝ち得ている点に感銘を受けました。

 今回は、応募総数が少なかったこともあり、残念ながら最優秀賞の該当者は出ませんでした。しかし、優秀賞となった2人の活動はとても熱心かつ丁寧で、誰もが参考にすべき内容でした。受賞とならなかった報告の中にも、さまざまな調査活動を重ねて成果をあげた報告や、近年専門家も交えて議論が深まりつつある窃盗症に関する活動の報告、無罪判決の獲得報告などもありました。それぞれに工夫を凝らした弁護活動が展開されており、刑事弁護レポートとして読者の皆様の目に触れる機会もあるかと思います。

 刑事弁護の進歩は、一人ひとりの弁護人の弁護実践の積み重ねによって実現します。これからも、若手弁護人の一層の活躍に期待します。

* 今回の選考委員は次のとおり。石田倫識(愛知学院大学教授)、坂根真也(弁護士・東京弁護士会)、佐藤正子(弁護士・滋賀弁護士会)、髙橋宗吾(弁護士・第二東京弁護士会)、児玉晃一(弁護士・東京弁護士会)、北井大輔(本誌編集長)。

* 本賞は、株式会社TKCにご協賛いただいております。