15(2018年)

[最優秀賞]

介護殺人未遂事件 ──不起訴処分と家族の再生

池田真理子いけだ・まりこ兵庫県弁護士会・68期

殺人未遂被疑事件

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[優秀賞]

「学び」を活かして得た逆転無罪判決

市川耕士いちかわ・こうし高知弁護士会・67期

破産法違反被告事件

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[優秀賞]

夫の供述の信用性を弾劾して得た無罪判決 ──弁護士になって最初の刑事事件

大沼卓朗おおぬま・たくろう第二東京弁護士会・69期

覚せい剤法違反被告事件

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[論評]

 第15回季刊刑事弁護新人賞は、全国から10件11人の応募がありました。2017年11月12日、現代人文社にて選考委員会を開きました。いずれも熱意と努力が感じられる珠玉の報告でしたが、侃々諤々の議論の末、最優秀賞1名、優秀賞2名を選考しました。

 最優秀賞の池田真理子さん(兵庫県弁護士会・68期)は、全選考委員が一致して受賞対象に挙げました。被疑者勾留期間中という厳しい時間制約の中、家族との調整はもちろん、関係先に自ら出向いてケースワーカーやソーシャルワーカーとの環境調整にも尽力し、事件の根底にある家族内の問題の解決、家族関係の再構築にまで目を配った視野の広さと、丁寧に、ひたむきに取り組む姿勢が高い評価を得ました。裁判員裁判対象事件である殺人未遂被疑事件で不起訴処分を導いた成果もさることながら、弁護士登録から1カ月あまり、初めて受任した刑事事件で的確な弁護活動を展開されたことに、多くの選考委員が驚きとともに頼もしさを感じました。

 優秀賞には、白熱した議論を経た決選投票の末、市川耕士さん(高知弁護士会・67期)、大沼卓朗さん(第二東京弁護士会・69期)を選出しました。

 市川さんの報告については、依頼者との綿密な打合せと膨大な記録の精査、無罪を導くさまざまな可能性の検討を経て確立したケースセオリーを中核とする的確な弁護活動の積み重ねを評価しました。控訴審からの受任でありながら、追加証拠開示を実現したうえ、新たに開示を受けた証拠に基づく論証でケースセオリーを補い、原判決破棄・一部無罪を導いた慧眼も光りました。これにより、依頼者が資格喪失を免れた成果も注目に値します。

 大沼さんも、初めて受任した刑事事件で成果を挙げました。他人から密かに盛られたとして覚せい剤使用を否認するケースは、それほど珍しいものではありません。本件では、取調べに対する黙秘と調書作成拒否を貫徹した捜査弁護、体内から成分が検出されれば覚せい剤使用の故意を推認するとの“経験則”を打ち破るケースセオリーの探索・確立、検察側証人の供述を弾劾するセオリーの確立と、否認事件を闘うための王道を歩み、無罪判決を導いた着実な取組みが評価されました。積極的に先輩の助言を得て経験の少なさを補う姿勢も若手弁護人の参考になるものです。

 残念ながら受賞を逃した方の報告も、受賞作と比べてもほぼ遜色のない精力的な活動や、精緻な論証で無罪を導いた事例などがあり、質の高い弁護活動の広がりを実感できました。他方、捜査機関、検察官や裁判官・裁判所の不当な振舞いに対し、やや物わかりが良すぎるのではないか、と思われる例もありました。経験の少ない若手だからこそ、実務上は当然視されている(ようにみえる)としても、不当な扱いに断固立ち向かい、原理・原則を重視する気概にこだわってほしいものです。若手弁護人のさらなる活躍に期待します。

* 今回の選考委員は次のとおり。中川孝博(國學院大学教授)、笹倉香奈(甲南大学教授)、炭谷喜史(弁護士・大阪弁護士会)、水谷恭史(弁護士・大阪護士会)、中原潤一(弁護士・埼玉弁護士会)、坂根真也(弁護士・東京弁護士会)、 児玉晃一(弁護士・東京弁護士会)、北井大輔(本誌編集長)

* 本賞は、株式会社TKCにご協賛いただいております。