11(2014年)

[最優秀賞]

指名手配・逃亡生活を経て再度の執行猶予を得た事例

折戸誠子おりと・せいこ第一東京弁護士会・65期

建造物侵入・窃盗被告事件

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[優秀賞]

実況見分調書と闘って獲得した無罪判決

小林和彰こばやし・かずあき長野県弁護士会・63期

自動車運転過失致死・道交法違反被告事件

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[優秀賞]

事実の探求

赤堀順一郎あかほり・じゅんいちろう大阪弁護士会・65期

窃盗被告事件

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[論評]

 第11回目を迎えた季刊刑事弁護新人賞に、前々回の応募者は24名だったのに対して、前回は9名の応募しかありませんでしたが、今回は13名もの応募があり、地域的にも、宮城2名、茨城1名、東京3名、長野1名、大阪4名、岡山1名と、やや地域的な広がりもみられ、何よりも内容的にレベルの高いものがほとんどで、質の向上を感じました。

 2013年11月17日に選考委員会を開催し、厳正な審査の結果、標記のとおりの受賞者を選ばせていただきました。今回も、選考委員がすべての応募作品に目を通しましたが、数が多くはなかったものの、本当に甲乙をつけがたいものでした。

 その中でも、最優秀賞の折戸さんは、情状弁護の事案でしたが、窃盗の被害者である元アルバイト先との交渉における熱意と工夫や、公判後の被告人の両親の元への訪問については、東京からは遠方というべき京都まで、しかも、事前には面談を断られていたにもかかわらず、果敢にアタックをしたという、その情熱と行動力は、絶賛に値するものといえます。たしかに、嫌疑不十分(もしくは「嫌疑なし」)を理由とする不起訴処分や無罪判決の獲得は、弁護活動の成果としては最たるものとはいえます。しかし、単純な情状弁護といえども、「足で稼ぐ弁護」を実践された折戸さんの弁護活動のあり方は、圧倒的に多い情状弁護事案の方向性を示すものとして、高く評価されました。

 優秀賞の小林さんは、「警察の行った実況見分であれば、客観的事象に関するものだから、まさか警察官も嘘は書かないだろう」などという思い込みに惑わされることなく、被告人の言い分へ最大限に耳を傾け、実況見分調書の内容に疑いを抱き、実況見分調書の信用性を争ったという弁護姿勢は、調書裁判に対する果敢な挑戦として、高く評価されました。ことに、実況見分のやり直しが行われることになった際には、事故日と同じ雨の日の夜間に行われるだろうという想定のもとに、その都度、事故現場に赴いて、実況見分の様子を検証しようとするなど、やはり「足で稼いだ」弁護活動をされたことが高く評価されました。また、一審での有罪判決にも負けることなく控訴をされ、無罪判決を獲得されたことは、執行猶予事案における控訴提起の適否という困難な問題を克服された点においても、大いに参考となります。

 同じく優秀賞の赤堀さんも、犯行推定時刻を覆すアリバイの確保について、「足で稼ぐ」弁護活動をされ、公訴取消しという成果を挙げられたことが、高く評価されました。また、捜査段階において、積極的に供述をしていくべきか、黙秘を貫くべきかについては、事案によって異なるとしか言いようのない、極めて困難な選択を強いられるのですが、この事案では黙秘を貫かれ、それによる成果を得られているとも思いました。もっとも、この点については、早期に積極的供述をすることによって不起訴処分を獲得する可能性はなかったのかについては、吟味の必要があるのかもしれません。

 今回は、応募数が多くはなかったものの、応募作品は、それぞれに創意工夫がなされていた質の高いものがほとんどで、若手弁護士の刑事弁護活動における質は、確実に向上していることを実感できました。

 次回も、今回と同様に、質の高い弁護活動を広く知っていただくために、ぜひ多数の応募をいただけるようお願い申し上げ、選考のご報告とさせていただきます。