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市川雅士いちかわ・まさし第二東京弁護士会・61期
恐喝被告事件
寺林智栄てらばやし・ともえ愛知県弁護士会・60期
窃盗被告事件
白諾貝はく・だくかい札幌弁護士会・61期
道交法違反(救護義務)被疑事件
第7回目を迎えた季刊刑事弁護新人賞は、前回をも上回る20名もの応募がありました。内訳は、応募時の地域別で、東京7名、札幌2名、福島2名、埼玉1名、千葉1名、愛知1名、大阪2名、奈良1名、福岡1名、長崎2名でした。前々回は6地域にとどまり、前回は9地域18名でしたので、地域的な広がりや人数的な増加傾向も定着しつつあるように感じました。また、都市型公設事務所の勤務弁護士から5名、日本司法支援センター(法テラス)のスタッフ弁護士から5名、大学内法律事務所から1名、日弁連と地方自治体とで設立された法律事務所から1名と、公的な事務所に所属する弁護士が20名中12名を占めた(応募時点)という特徴も、前回とほぼ同様でした。
2009年11月8日に選考委員会を開催し、厳正な審査の結果、標記のとおり、最優秀賞1名、優秀賞2名を選ばせていただきました。今回も、選考委員がすべての応募作品に目を通し、評価をさせていただきました。とくに、20通という多数でしたが、いずれも一気に読めるほど、質的な高まりを感じました。
最優秀賞に選ばれた市川さんは、企業法務事務所に勤務されていますが、弁護活動の内容は、ベテランの弁護士でも及ばないような高度なものでした。ことに、被疑者がT女に美人局をさせたかのように被害者から言われていた、そのT女に、関係者の協力が得られたとはいえ、捜査機関よりも早く接触したうえで、T女の供述録取書をその場で作成して証拠保全を図るなど、機敏かつ積極的な証拠収集活動をされました。まさしく熱心弁護の名に値します。しかも、被害者と被疑者の間に、T女をいわば三面契約的に介入させて示談を成立させる際の弁護士倫理の検討も十分になされており、弁護活動の限界を意識されつつ精一杯の活動をされています。
優秀賞に選ばれた寺林さんの事案は、執行猶予相当であり、弁護活動としては執行猶予判決が得られれば十分であると思いがちです。しかし、いち早く被告人が認知症であることに気づき、単に執行猶予を得ただけでは被告人の更生は図れないという問題意識から、地域包括支援センターや民生委員との連携を図るなど、真の更生に向けた弁護活動を展開されました。このレポートに出てくる裁判官のような「国選弁護人の活動の範囲を超えている」という認識は誤っており、高齢者や知的障害者の弁護活動の方向性を示した現代的な弁護活動のあり方を示されたのではないでしょうか。
同じく優秀賞に選ばれた白さんは、現場に赴いて被疑者の弁明の裏づけをとるという、いわゆる「現場主義」を貫かれただけではなく、タクシー会社へも赴いてドライブ・レコーダーを入手するなど、まさしく「足で稼ぐ」弁護活動を実践され、「ひき逃げ」については不起訴処分を得られました。それだけではなく、被害者の方に対しても、粘り強い説得活動をされ、ついに嘆願書をもらえるに至っています。ややもすれば、示談交渉においては、謝罪をして宥恕の意思表示を得るだけの「お願い」に終わりがちです。しかし、「被疑者の立場に立てば勘違いもありうる」という無罪原則にまでも踏み込む形で、被害者にも考えてもらうという説得方法は、大いに参考になります。
前回は、法テラスのスタッフ弁護士3名が受賞をされましたが、今回は、いわゆる普通の新人が2名も受賞をされたことになり、若手の弁護士のなかで刑事弁護活動の質が高まり、幅が広がっているという手応えを感じさせてもらいました。
最後になりましたが、今回の応募作品はいずれも質が高く、読みごたえのあるものばかりで、本当に選考には悩みました。これからも、このような新人の活躍を励みとして、質の高い熱心弁護がよりいっそう展開され、さらに広範囲な地域や層から多くの応募があることを祈念しております。
[論評]
第7回目を迎えた季刊刑事弁護新人賞は、前回をも上回る20名もの応募がありました。内訳は、応募時の地域別で、東京7名、札幌2名、福島2名、埼玉1名、千葉1名、愛知1名、大阪2名、奈良1名、福岡1名、長崎2名でした。前々回は6地域にとどまり、前回は9地域18名でしたので、地域的な広がりや人数的な増加傾向も定着しつつあるように感じました。また、都市型公設事務所の勤務弁護士から5名、日本司法支援センター(法テラス)のスタッフ弁護士から5名、大学内法律事務所から1名、日弁連と地方自治体とで設立された法律事務所から1名と、公的な事務所に所属する弁護士が20名中12名を占めた(応募時点)という特徴も、前回とほぼ同様でした。
2009年11月8日に選考委員会を開催し、厳正な審査の結果、標記のとおり、最優秀賞1名、優秀賞2名を選ばせていただきました。今回も、選考委員がすべての応募作品に目を通し、評価をさせていただきました。とくに、20通という多数でしたが、いずれも一気に読めるほど、質的な高まりを感じました。
最優秀賞に選ばれた市川さんは、企業法務事務所に勤務されていますが、弁護活動の内容は、ベテランの弁護士でも及ばないような高度なものでした。ことに、被疑者がT女に美人局をさせたかのように被害者から言われていた、そのT女に、関係者の協力が得られたとはいえ、捜査機関よりも早く接触したうえで、T女の供述録取書をその場で作成して証拠保全を図るなど、機敏かつ積極的な証拠収集活動をされました。まさしく熱心弁護の名に値します。しかも、被害者と被疑者の間に、T女をいわば三面契約的に介入させて示談を成立させる際の弁護士倫理の検討も十分になされており、弁護活動の限界を意識されつつ精一杯の活動をされています。
優秀賞に選ばれた寺林さんの事案は、執行猶予相当であり、弁護活動としては執行猶予判決が得られれば十分であると思いがちです。しかし、いち早く被告人が認知症であることに気づき、単に執行猶予を得ただけでは被告人の更生は図れないという問題意識から、地域包括支援センターや民生委員との連携を図るなど、真の更生に向けた弁護活動を展開されました。このレポートに出てくる裁判官のような「国選弁護人の活動の範囲を超えている」という認識は誤っており、高齢者や知的障害者の弁護活動の方向性を示した現代的な弁護活動のあり方を示されたのではないでしょうか。
同じく優秀賞に選ばれた白さんは、現場に赴いて被疑者の弁明の裏づけをとるという、いわゆる「現場主義」を貫かれただけではなく、タクシー会社へも赴いてドライブ・レコーダーを入手するなど、まさしく「足で稼ぐ」弁護活動を実践され、「ひき逃げ」については不起訴処分を得られました。それだけではなく、被害者の方に対しても、粘り強い説得活動をされ、ついに嘆願書をもらえるに至っています。ややもすれば、示談交渉においては、謝罪をして宥恕の意思表示を得るだけの「お願い」に終わりがちです。しかし、「被疑者の立場に立てば勘違いもありうる」という無罪原則にまでも踏み込む形で、被害者にも考えてもらうという説得方法は、大いに参考になります。
前回は、法テラスのスタッフ弁護士3名が受賞をされましたが、今回は、いわゆる普通の新人が2名も受賞をされたことになり、若手の弁護士のなかで刑事弁護活動の質が高まり、幅が広がっているという手応えを感じさせてもらいました。
最後になりましたが、今回の応募作品はいずれも質が高く、読みごたえのあるものばかりで、本当に選考には悩みました。これからも、このような新人の活躍を励みとして、質の高い熱心弁護がよりいっそう展開され、さらに広範囲な地域や層から多くの応募があることを祈念しております。