大藪大麻裁判の控訴審(東京高裁)/大藪さんの証拠請求却下して結審


東京高等地方簡易裁判所合同庁舎(2025年2月4日、東京・千代田区霞が関、刑事弁護オアシス撮影)

10分で終わった公判

 2月4日、東京高裁429号法廷で午後3時半より、大麻所持罪の無罪を主張して争っている大藪大麻裁判の控訴審(裁判長:田邊美保子)が開かれた。

 公判は、被告人の大藪龍二郎さんと弁護人(以下、「大藪・弁護人」と略す)が請求した証拠をすべて却下して、10分ほどで終わった。3月4日の次回公判で判決が言渡される。

 傍聴希望多数で傍聴は抽選となった。裁判所入口での手荷物検査後、法廷に入る前に傍聴者の荷物を全部預かるというものものしい警備があった。一審の前橋地裁でも同様な措置が採られていた。

 また、大麻草模様がデザインされたTシャツを着ていた傍聴人は、それを上着で隠すよう裁判所職員から注意された。袴田事件再審公判でも同様のことがあった。着用していたパーカーの「HAKAMADA」の文字を養生テープで隠すよう命令されている。これは現在、オープンコート訴訟として、傍聴人や弁護人に対する服装や装飾品についての裁判長の命令は違法だと、国家賠償を求めている。

事件・裁判の経緯

 事件の経緯はこうである。2021年8月8日に、やきもの作家の大藪さんは陶芸イベントの帰り道、運転に支障をきたす程の眠気を感じたため、群馬県内の国道の路側帯に車を停めて仮眠していた。

 そこに近隣住民の通報を受けてかけつけた警察官が大藪さんに対して道路交通法違反の嫌疑で職務質問をし、免許証の提示を求めた。大藪さんが免許証を提示したところ、警察官は群馬県警察本部に総合照会をかけた。犯歴照会による捜査・処分記録などから、嫌疑を薬物事犯に切り替えた。警察官は車内の検査で「植物片」を発見し、その簡易鑑定を実施。その結果、大麻成分が検出されたと判断し、その場で大藪さんを大麻所持の嫌疑で現行犯逮捕した。大藪さんは23日間の勾留の末、同年8月27日に、大麻取締法24条の2第1項の所持罪で起訴された(詳しくは、長吉秀夫氏の「大藪大麻裁判 第1回公判リポート」、本サイトのニュース記事・大藪大麻裁判を参照)。

 大藪さんは、前橋地方裁判所で、2021 年10月26日の第1回公判から約2年7か月、大麻所持罪の無罪を主張して争ってきたが、2024年6月4日、同地方裁判所(橋本健裁判長)は、検察の求刑どおり懲役6月の有罪判決(執行猶予3年)を言渡していた。そのため、東京高裁に控訴していた。

8つの控訴理由

 大藪大麻裁判の核心は、いうまでもなく「大麻はなぜ有害なのか」「大麻所持をなぜ処罰するのか」である。大藪・弁護人の控訴理由は、つぎの8点である。

①判決と理由とのくいちがいがある。
 一審では、芸術活動などに関する大藪さん本人の報告書と鑑定に関する平岡義博意見書の2点が採用されたが、それらが証拠の標目に掲載されていなかった点を理由にしたものである。

②捜査手続に関して事実認定および法令適用の誤りがある。
 一審で大藪・弁護人は、大藪さんに対する職務質問から所持品検査、現行犯逮捕までの一連の取調べに違法があったので、違法収集証拠の排除を求めたが却下された。嫌疑を途中で道交法違反から薬物事犯に切り替えた群馬県警の取調べは「ラテン系の服装」を理由とした差別的法執行(レイシャル・プロファイリング)であること、任意の取調べに真摯に対応し、植物片を大麻であることを認め警察に出頭する旨伝えている大藪さんには、逃亡のおそれも罪証隠滅のおそれもないから、現行犯逮捕の必要性がなかったこと——などについて、一審は事実誤認しているというものである。

③薬物鑑定について事実の誤認がある。
 「植物片」を大麻草と認定した一審は、群馬県警の科捜研鑑定書と鑑定証人の尋問にあった不可解な点や鑑定方法の非科学性を見逃しているとして、控訴審で再鑑定を求めた。

④大麻取締法1条に解釈・適用に誤りがある。
 一審は大麻が有害であると認定したが、それは40年前の最高裁判例を踏襲したものである。それらの解釈は昨今の科学的知見を無視したものである。

⑤大麻取締法24条の2に解釈・適用および事実認定の誤りがある。
 大藪さんは、自己使用——パニック障害の自己治療と創作活動——のために大麻を少量所持していたので、大麻取締法24条の2がいう「みだりに」所持していたことにあたらない。その点を認めなかった一審には、法令解釈・適用に重大な誤りがあるとするものである。

⑥法令の適用の誤りが憲法違反の結果をもたらしている。
 一審は、大麻取締法で「国民の保健衛生上の危害防止のため、(大麻)所持等を規制し、その取扱者を免許性にするなどしていることは合理的かつ必要な措置といえる」としたが、大麻規制に関する制度論・政策論は、検察官の主張にもない理由付けであり、弁護人にとってはまさに不意打ちである。控訴審において、弁護人に大麻政策の妥当性について立証と主張の機会を保障するよう求めた。

⑦法令の適用の誤りが条約違反の結果をもたらしている。

⑧量刑不当が過酷な結果をもたらしている。
 一審は3年の執行猶予付き懲役6月の判決であるが、これが確定すると陶芸家である大藪さんにとっては、厳しい制裁になる。企業コンプライアンスへの配慮から、百貨店などでの展示会や公共機関での個展の開催などが困難となる。また、海外での制作・表現活動にも制限が課される。

 以上の控訴理由を添付資料とともに、東京高裁に提出している。

 資料は、①第一審弁護人請求証拠に関する報告書、②平岡義博作成の大麻鑑定に関する意見書、③京都地裁であった大麻裁判における証人アンドリュー・ワイルの証人尋問調書、④大藪さん本人の芸術活動と大麻との関係にふれた裁判官あて報告書などと、あたらしく提出した①園田寿(甲南大学名誉教授)の意見書、②丸山泰弘(立正大学教授)の意見書、③正高佑志(精神科医)の意見書である。

 そして、今日までに大藪・弁護人は、東京高裁に対して、証人として園田寿、丸山泰弘、正高佑志各氏の証拠調べを請求していた。

 この日、大藪・弁護人は、さらに追加の証拠申請をしている。1点目が、押収物である「植物片」の再鑑定。この事件は、2023年改正大麻取締法(施行:2024年12月)以前のもので、改正前の法律によって起訴されている。しかし、従来不明確であった「大麻」の定義に関する解釈を明確にする法改正があったので、「植物片」が「大麻草」であるかどうかを、それを踏まえて科学的に立証すべきである、としている。

 2点目が、改正大麻取締法に関する著作『あたらしい大麻入門』(長吉秀夫執筆)の物証としての提出と著者長吉さん本人の証人としての請求である。

 しかし、前述したように東京高裁は、これらを含めてすべて却下した。

報告集会で発言する石塚伸一弁護士(左端)、大藪龍二郎さん(中央)、丸井英弘弁護士(右端)(2025年2月4日、東京・新橋、刑事弁護オアシス撮影)

今後の闘いについて語った報告集会

 公判後、報告集会が、裁判所の最寄り駅である新橋駅近くにあるニュー新橋ビルの会議室でひらかれた。

 冒頭、弁護人の石塚伸一弁護士は、つぎのように、高裁の訴訟指揮について触れた。

 「この裁判中に大麻取締法が改正されたので、長吉秀夫さんの『あたらしい大麻入門』を証拠申請した。これは、裁判所も改正法について十分理解していないので、一緒に勉強しましょうと呼びかけたものです。というのは、改正法では、人体に有害であるとされているTHCの含有量によっては健康に有害でないと解釈できる余地があるので、大麻の有害性の程度をあらためて検察が証明する必要があると、そのことを高裁に求めたわけです。しかし、それをすべて却下した」。

 さらに、法廷で「騙し討」と発言した点について触れた。「高裁の審理日程として当初3月4日を入れていたが、そのあとで書記官を通して裁判官から20分でいいから少し前にもう1日入れたい旨連絡が来た。それを承諾していたが、今日は手続について打合わせをして、3月4日に実質審理に入るものと思っていた。しかし、今日の公判で弁護人の申請証拠をすべて却下して次回は判決期日とするとしたので、それは騙し討でないかという気持ちが込み上げてきた。この騙し討発言は、こういう憲法違反の手続があったという足跡を公判記録に残して、上告したとき、最高裁が上告受理をせざるを得ない状況をつくることに意味があった」。

 高裁の訴訟指揮に落胆した様子の大藪さんは、裁判についてつぎのように語った。

 「(請求証拠の全部却下と)悪い予想があたってしまった。私は40年以上前の判例の下で裁かれています。こうした古い考え方、判例で、私も、僕以外の者も牢屋に入れられることには納得できない。大麻の有害性を最新の科学的尺度ではかって欲しい。裁判官には今後もできる限りしっかりと裁判をして欲しい」。

 大麻裁判を50年も続けてきた丸井英弘弁護士は、裁判が機能麻痺している点に触れて、つぎのように語った。

 「こういう中で弁護人としてやるのはとてもつらい思いがあります。検察は大麻にこういう害があるから処罰することを証明すべきだし、裁判所はそうするよう検察にきびしく勧告すべきです。それができないのなら、市民の裁判を受ける権利が侵害されている、人権が守られていないということと同じです。大麻裁判は国家的冤罪だ。こうした裁判を50年もやってきたが、今後も諦めずにまた原点にかえって弁護活動をやり抜きたい」。

 最後に、支援者の長吉秀夫さんは、今後の闘いについてつぎのように結んだ。

 「大麻取締法が改正されたことで、大麻の定義などでいろいろな疑問点がさらに浮かび上がってきた。その問題点を整理して批判していきたい。この裁判は、法改正について国会で議論していた期間にまたがっていた。闘いをつぎに広げる意味で、みなさんにできるかぎり資料を提供して、みんなと一緒に勉強して闘い続けていきたい。3月4日の高裁判決の前に、〈大麻は有害だ、その所持や使用を処罰することは当然だ〉ということは、現在の科学的知見に基づいておかしいという世論を盛り上げていきたい。やれることはすべてやりたい」。

(な)

(2025年02月18日公開)


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