12月19日、衆議院第1議員会館で、再審法改正をめざす市民の会(RAIN)が主催して、国会内集会「袴田無罪から再審法改正へ 国会で冤罪原因を究明し 改革を」が開かれた。会場には90名以上が参加した。
集会開始に先立って、先日亡くなった市民の会の共同代表・木谷明元裁判官と1月に亡くなった市民の会の運営委員で袴田事件弁護団長・西嶋勝彦弁護士に、参加者全員で黙祷を捧げた。
集会の冒頭、市民の会共同代表の周防正行監督が「会はもう6年目に入ったが、今年は、袴田再審無罪など大きな動きがあった。そして、多くの人に再審というものがどういものか、その意味が理解できたのではないか。来年こそ再審法改正に結びつけたい、今年以上に来年はがんばっていきたい」と力強く開会の挨拶をした。
袴田巖さんの姉・ひで子さんが、静岡からWebで参加。「今年はいい年でした。巖の再審無罪で喜びであふれています。しかし、巖だけが助かればいいということではありません。いまだ再審開始が実現できず、冤罪で苦しんでいる人もたくさんいます。再審開始法の改正を是非ともお願いしたい」と述べた。
集会には、多数の国会議員が国会の本会議の合間をぬって参加した。
昨日、衆議院法務委員会ではじめて質問に立ったという松下玲子衆議院議員(立憲民主)は、「残念ながら、法務省、警察は『冤罪』という言葉をいまだ使わない。彼らは少しも反省していない。今回の選挙で議員になったばかりですが、再審についてさらに勉強して、再審法改正を議員立法で実現したい」と表明。
今年3月に、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(議連)が発足した。その会長・柴山昌彦衆議院議員(自民党)は、「袴田事件の無罪判決をきっかけに、議連も再審法改正のタイミングを失わないよう、私たちの論点を整理して、議員立法を『懐刀』としてもっていて、法務省に迅速な対応を迫っていきたい。議連の総会を来年の早い段階に行って、一刻も早く再審法改正に向かってがんばりたい」と挨拶。
福島瑞穂参議院議員(社民党)は、法務委員会で袴田再審無罪に対する検事総長見解を撤回し辞任すべきだと追及した。福島議員は、「見解で、有罪の立証ができないと控訴を断念したといっているのに、その中で同時に袴田さんを犯人扱いしています。刑事訴訟法を知らない総長は辞任すべきだ。検察も警察も内部で事件を検証しているというが、英国の王立委員会のように第三者による誤判原因調査委員会を立ち上げて、警察、検察、裁判所のどこが悪かったかを検証すべきである」と国会が誤判原因究明委員会をつくるべきだとした。
議連幹事長の逢坂誠二衆議院議員(立憲民主)は、「再審法改正の実現は、何よりも国民、市民の力にかかっている。しかし、まだ、多くの人が再審の言葉の意味がわからないでいる。冤罪は昔のことではないかということも聞く。再審、冤罪について、わかりやすく伝えていくことも重要である」と、国民世論がもつ冤罪・再審についての意識に触れた。冤罪・再審は、年金問題のように、多くの国民の日常生活に必ずしも直結していないだけに、国会で議論を盛り上げ、それをどう国民の意識に浸透させるかが大きな課題である。
鴨志田祐美弁護士(日本弁護士連合会再審法改正実現本部長代行)は、「再審法改正の到達点と実現課題」と題して、袴田事件の再審の経過をたどりながら、なぜ58年間も雪冤にかかったか、その理由が検察官の証拠隠しと検察官の抗告(不服申立て)にあると指摘した。
そして、再審法改正のポイントとして、つぎの4点をあげる。①証拠開示の制度化、②検察官抗告の禁止、③手続規定の明文化、④証拠の保管・保全。
さらに、鴨志田弁護士は、法務省など再審法改正に対する抵抗勢力は、再審請求審の審理は現行法の運用で改善できる、そして再審法改正は「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の議論に委ねるべきだ、というが、「あり方協議会」は「アリバイ協議会」だと厳しく批判。そして、再審法改正は国会主導ですべきだと強調した。
最後に、議員立法の先導役である議連は、現在、選挙前を上回り、354名に達した。地方公共団体の動きも活発であり、17府道県を含む地方自治体の450議会が国会に対して再審法改正を求める意見書を採択していると報告。
刑事法研究者の指宿信成城大学教授(再審法改正をめざす市民の会運営委員)が、「世界の誤判原因究明制度から学ぶ」と題して、記念講演を行った。
誤判冤罪事件が起こったあと、どのように誤判原因を究明し、それを制度改革につなげているのか、英国、カナダ、米国など世界各国の動き、とくに第三者による誤判原因究明委員会のあり方と制度設計について紹介した。誤判冤罪を防止するためには、冤罪を概念として受け入れることと、刑事司法の過誤に対する責任感の確立が急務であるとした。
最後に、日野町事件の阪原弘さんの長男の阪原弘次さんが挨拶した。その再審は、大阪高裁で再審開始決定後、最高裁に特別抗告されている。
「父は24年間、刑務所の中から無罪を訴えていたが、力尽きてしまった。あのとき、全証拠が開示されていたら、父は死んでいただろうか、有罪判決が出ていただろうか。まだ全国にはたくさんの冤罪の犠牲者がいます。みなさんの力で再審法を改正して、早期の救済が果たされるようにご尽力いただきたい」と訴えた。
来年の通常国会に、再審法改正法案が議員立法として上程できるかが今後、大きな焦点となることは間違いない。
(な)
(2024年12月23日公開)