第50回衆議院議員総選挙は、投票日が10月27日と迫ってきた。プレサンス事件や大川原化工機事件などに見られる違法な捜査手続や袴田事件に象徴される再審法の問題などについて、各政党はどのような現状分析と政策を掲げているのか、各政党のホームページで調べてみた。
今回の各政党の選挙公約の中に、刑事司法まで入れている政党は、共産党を除いて皆無であった。衆議院解散の理由が自民党の裏金問題に端を発した政治改革であったためだろうか。
各政党の基本政策集まであたって、刑事司法に関する各政党の政策を見たので、以下でその概要を紹介する。
政権政党である自民党からはじめよう。「総合政策集2024 J-ファイル」で「多様性・共生社会」という項目をあげて、司法分野のデジタル化と犯罪被害者対策の推進をあげているだけで、その他の刑事司法関係への言及はない。
つぎに、立憲民主党は、『立憲の政策がまるごとわかる立憲民主党 政策集2024』の法務で、刑事司法とくに冤罪・再審、取調べの可視化、人質司法について、つぎのように詳しく触れている。
「『えん罪』被害者の速やかな救済のため、再審法の在り方を全面的に見直します。施行70年を経ても一切改正されてこなかった刑事訴訟法第4編再審を抜本的に見直して、裁判所ごとに審理に格差が生じている、いわゆる『再審格差』を是正するとともに、審理の長期化を解消することを目指します。再審請求審において、全面的な証拠開示制度を創設し、併せて再審開始決定に対する検察官による不服申し立てを禁止するなどの見直しを進めます」
「人質司法」についても、「被疑者及び被告人の身体拘束について、人権保障と真実発見のバランスの観点から課題を整理し、対応を検討」するとしている。
日本維新の会は、「維新八策2024」で、【行政改革・公務員制度改革】「5 小さな行政機構で、大きな社会経済を回す。昭和型国家運営モでルからの大転換」の中で、「司法制度改革」の項目を上げて、つぎのように触れている。
「冤罪根絶のため、参考人も含めてすべての捜査において取り調べの全面可視化を行うとともに、国際基準である取り調べ時の弁護人立ち合いの制度化に努め」るとしている。
自民党との連立している公明党は、『公明党2024衆院選政策集』で、「物価高克服へ、暮らしを守る! 所得を上げる! 」「教育・子育て支援の充実」「政治家改革、身を切る改革と行財政改革」などをあげるが、刑事司法への言及はない。
共産党は一番詳しい。「2024総選挙政策」の中で、「77、司法・警察」という項目をとくに設け、「裁判員制度、再審制度、警察・検察改革 国民のための司法・警察制度に改革します」として、司法制度全般から、刑事司法特に裁判員裁判、冤罪・再審、取調べの可視化についてまで論じている。他の政党の政策をその質・量ともに凌駕する。
冤罪問題については、袴田事件にも触れて、「日本の刑事裁判は、犯罪捜査から裁判の判決にいたるまで、自白に偏重したやり方をとってきました。……これらのえん罪のほとんどは、警察が逮捕した被疑者や被告人を四六時中支配できる警察留置場に拘束し、そこで長時間の取り調べなどによりウソの自白を強要して自白調書を作成し、それを受けた検察官が物証やアリバイより、自白調書を重要なよりどころとして起訴しています。被告人が否認していると保釈を認めず、長期に勾留する『人質司法』といわれる現在のやり方は、公正な裁判を害するものです。『罪証隠滅を疑うに足りる相当の理由』など、保釈についての刑事訴訟法の規定通りの運用をするよう、改善を求めます」と、その原因まで触れている。
再審法改正については、「袴田事件では第1次再審請求は約27年間、第2次再審請求も約15年間もの期間を要している原因は、刑事訴訟法の再審についての規定は、ほとんど戦前のままで、再審手続きを定めたルールがないに等しい」と分析。①再審手続での証拠開示のルール、②再審開始決定にたいする検察官の不服申立て(抗告、特別抗告)の禁止、③公開の法廷での事実調べや証拠の採否など、公正な再審手続の整備の必要性を強調している。
さらに、誤判原因究明のための第三者委員会の設置を盛り込んでいる。
国民民主党は、『理念と政策の方向性』にはないが、過去の政策集である「国民民主党政策INDEX2019」法務では、「人権尊重」の項目を上げて、つぎのように、冤罪・再審問題に触れている。
「無実の人が罪を負わされる『えん罪』をなくすため、『取調べの録音録画(可視化)制度」』の対象事件(今の法律では全事件のわずか3%程度)をさらに拡大します。同時に、公正な事後検証が裁判所などでできるよう、取り調べについて、最初から最後までの録音録画を実現します。……現在の再審請求手続きは大変複雑で、再審を受けるための壁となっています。この再審請求手続きを見直して再審への門戸を開き、真にえん罪のない社会を目指」すとしている。
れいわ新選組は、マニフェストで、「1 増税? ダメ♡絶対!」「2 本物の安全保障〜戦争ビジネスには加担しない〜」などをがあげるが、刑事司法に関しては皆無である。
社会民主党は、「基本政策 地域から実現―社民党が取り組む5つの課題」で「人権・共生、市民の司法」の項目を上げ、つぎのように、言及する。
「裁判員制度や法曹養成制度を司法制度改革の趣旨に沿って見直し、開かれた『市民の司法』を実現します。……参考人も含む取り調べの全過程可視化と、検察側が有する全証拠の開示を義務化します。事後的な検証を可能とするため、捜査時の資料等の保管を義務づけます。誤判原因を調査するための機関の創設を検討します」。
そして、「代用監獄」の廃止など被疑者・受刑者の人権確立の取組みや、国際潮流を踏まえ死刑廃止を含めた刑罰制度の見直し、そして死刑廃止条約の批准や拷問禁止条約の遵守を政府に要求するとしている。
最後に、参政党では、衆院選特設サイトを設けているが、その他の政策集を含めて、刑事司法に関する項目は上げられていない。
(2024年10月23日公開)