10月15日、衆議院選挙にあわせて「最高裁判所裁判官国民審査」が告示された。今回は、長官を含む以下の6人の裁判官が対象になる。
・尾島明裁判官(裁判官出身、66歳)
・宮川美津子裁判官(弁護士出身、64歳)
・今崎幸彦裁判官(最高裁判所長官で裁判官出身、66歳)
・平木正洋裁判官(裁判官出身、63歳)
・石兼公博裁判官(行政官出身、66歳)
・中村愼裁判官(裁判官出身、63歳)
「国民審査」は、憲法に規定される制度で、既に任命されている最高裁判所の裁判官が、「憲法の番人」としてふさわしいかどうかを国民が審査する解職の制度(憲法79条)。
それを判断するためには、対象となる裁判官がどのような裁判に関与し、どう判断したかを知る必要がある。それを簡単に知ることができるサイトをNHKが立ち上げている。
それを見ると、再審事件では、名張毒ぶどう酒事件がある。これについて最高裁判所第3小法廷(長嶺安政裁判長)は、2024年1月29日、再審請求を認めない判断をした。5人の裁判官のうち学者出身の宇賀克也裁判官は再審を開始すべきだとする反対意見を述べた。
今回対象となった裁判官では、今崎幸彦裁判官が関与しているが、多数意見と同じ、再審棄却判断であった。
また、刑事事件では、第2小法廷(草野耕一裁判長)は2023年3月24日、「赤ちゃんの遺体遺棄事件」で元技能実習生に逆転無罪の判断をしているが、尾島裁判官も同様の意見である。
さらに、プレサンス事件の国賠訴訟における証拠開示について、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は、大阪地検特捜検事による約18時間分の取調べ映像を証拠として提出するよう国に命ずる決定を4人全員一致で出した。これにも尾島裁判官が関与している。
そのほか、日本民主法律家協会の国民審査プロジェクトチームは、パンフレット「第26回 最高裁裁判官国民審査 憲法と人権の砦を築くために…主権者である私たちが、最高裁を変えよう。」を制作し、同協会のサイトに掲載している。ここでは、審査対象裁判官のプロフィールや主な関与裁判を紹介するとともに、弁護士や研究者がそれぞれ評価を付している。
新屋達之福岡大学教授は、今崎裁判官について、つぎのように評価している。
「2022年6月24日最高裁判所判事、2024年8月16日より最高裁判所長官。裁判実務の経験は、1983年の裁判官任官から約40年のうち8、9年程度。最高裁事務総局などの司法行政畑を主に歩いてきた典型的司法官僚。最高裁裁判官任命後の関与判決には、①名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求審特別抗告審で、請求棄却の多数意見を支持(最3決2024年1月29日) ②犯罪被害者給付金の支給について、事実上同姓婚の関係にある者への支給が認められるかに関する判決において、『同性パートナーは犯給法の「犯罪被害者の配偶者」に該当しない』との反対意見(最3判2024年3月26日) ③買収で失職した議員は政務活動費と議員報酬を遡って返還すべきかどうかが問題となった事件で、当選無効までの報酬など元大阪市議に全額返還命じる判決をした事件で、当然に全額返還すべきとの多数意見に対し、議員報酬は返還する必要はないという反対意見(最3判2023年12月12日)。『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は、憲法13条に違反する』との判断には与したが、優れた人権感覚は感じられません。経歴としても裁判官の統制を促進する側ともいえ、『憲法の番人』にふさわしいとは思われません」。
なお、今回から、海外に住んでいる人の在外投票や、指定船舶に乗船している船員などの洋上投票が可能になった。
(2024年10月18日公開)