山下潔弁護士が、反省・自戒をこめて、『手錠腰縄による被疑者・被告人の拘束』を出版


ご自分の著書を手に持つ山下潔弁護士(日弁連人権擁護大会シンポジウム会場入口にて、2024年10月3日、名古屋国際会議場白鳥ホール前。写真撮影/刑事弁護オアシス編集部)

 10月4日、名古屋市の名古屋国際会議場で、日本弁護士連合会の第66回人権擁護大会が開催され、「刑事法廷内における入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める決議」が、全会一致で採択された。

 この人権擁護大会に先立って、大阪弁護士会の山下潔弁護士が『手錠腰縄による被疑者・被告人の拘束──人権保障の視点から考える』を、現代人文社から出版した。

 本書は、日本における手錠・腰縄の歴史を紐解くところからはじまり、戒護権や訴訟指揮権と手錠・腰縄による拘束との関係など法的問題を検討する。そして、法廷における手錠・腰縄による人身拘束を争った裁判例を紹介する。人権感覚に鋭いはずの弁護士にとって、法廷における被疑者・被告人の手錠・腰縄姿が「日常」となっていることに、自身も含めて弁護士に反省と自戒を迫っている。

 山下弁護士は、このテーマが人権擁護大会ではじめて取り上げられたことについて、つぎのように語った。

 「世界的に廃止の潮流にある法廷における手錠・腰縄問題は、私が体験した年老いた被疑者に対する手錠・腰縄の取調べに始まり、半世紀後、裁判所において人間の尊厳の侵犯であることの判決を得た。そして、2024年10月約58年の歳月を経て、日弁連の人権擁護大会の決議となるに至ったことは感無量です。この決議が大きな転換点となって、この問題が解決されることを強く期待しています。大会決議は廃止までの一里塚でしょうが、本書が役立つことを希うものです」

 大阪地方検察庁で行われた検察修習のとき、年老いた女性が電気洗濯機の横領で被疑者として手錠・腰縄姿で当時修習生の山下弁護士の前に現れた。そのとき、これは「むごい」と直感した。逃亡のおそれもない年老いた女性に対して、なぜ両手が施錠されているのか。このときのショックが本書出版の原点であるという。

 その後、山下弁護士は手錠・腰縄はなぜ問題かを考え続けた。その法的問題を探求して、手錠・腰縄による人身拘束は、憲法が保障する個人の尊厳と無罪推定の権利を踏みにじるものであり、国際人権法にも違反するとの結論に至った。そして、法廷の外で被疑者・被告人の手錠・腰縄を外すよう裁判所に申し入れるなど実践を積み重ねた。さらに、法廷における被疑者・被告人に対する手錠・腰縄による拘束は憲法13条の個人の尊厳に基づく人格権の侵害だとして、大阪地裁に国賠訴訟を提起し、それを認めさせるに至った。

 かつて被告人は、法廷で当然には弁護人の隣に座ることができなかった。せっかく弁護人という味方がいるのに被告人は孤立無援の状態に置かれていた。このため法廷で弁護人に助けを求めることも、相談することも容易でなかった。それを弁護人の有志たちが変えた──SBM(Sit by me)運動。今では、法廷で独りぼっちの被告人はいない。弁護人の日々のねばり強い活動が、当たり前だった景色を変えることができることを示している。

 弁護士、弁護士会が総力をあげて、法廷の外で被疑者・被告人の手錠・腰縄を外すよう裁判所へ申し入れることが進展すれば、SBM(Sit by me)運動のように、法廷における被疑者・被告人の手錠・腰縄姿は消えていくことだろう。

(2024年10月18日公開)


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