袴田事件(1966年)の再審公判へ向けて、死刑が確定している元プロボクサー袴田巖さん(87歳)の弁護団と裁判所、検察による第3回事前協議が6月20日、静岡地裁(國井恒志裁判長)で開かれた。地裁は事前協議の日程として、すでに決まっていた7月19日に加えて9月~10月下旬の3回を指定した。弁護団は早期の再審公判と年内の無罪判決を求めてきたが、公判は11月以降になる可能性が出てきた。
検察は曖昧な態度に終始
事前協議は非公開で行われ、終了後に弁護団が記者会見して概要を説明した。今回の協議は再審公判を開く予定の法廷を使い、証拠調べの方法など「技術的な話」(西嶋勝彦・弁護団長)に時間が割かれた。
これまでの事前協議で焦点になっているのは検察の立証方針だ。しかし、検察はこの日の協議でも、従来の主張通り7月10日までに立証方針を書面で提出すると述べるにとどまり、内容は明かさなかった。また、前回の協議で地裁が要請した、同日までの冒頭陳述要旨の提出と証拠調べ請求についても応じるかどうかは「確約できない」として明言せず、「裁判所が審理計画を立てるのに支障がない程度に『証拠の範囲』を明らかにする」と説明したという。
一方、弁護団は地裁の要請に応えて、7月10日までに冒頭陳述要旨の提出と証拠調べ請求をすると表明した。冒頭陳述の内容について、弁護団の小川秀世・事務局長は「(死刑判決が袴田さんの犯行着衣と認定した)5点の衣類が捏造証拠であるとの判断を求め、袴田さんは無罪だと確認したい」と強調した。
裁判所は「法廷でしっかり証拠調べをしたい」
地裁はこうした状況も踏まえ、事前協議の日程として9月12、27日と10月27日を追加で指定した。7月10日までに出てくる双方の主張や証拠を見たうえで争点を整理し、どんな証拠をどのくらいの時間をかけて審理するかをこれらの期日で詰めるとみられる。
國井裁判長は協議で「法廷でしっかり証拠調べをして心証を取りたい」と語っており、準備も丁寧にする意向のようだ。検察が有罪の新たな立証をしなければ審理計画が早めに立ち、事前協議の期日が取り消されて早期に再審公判が開かれる可能性はあるものの、弁護団は「裁判所はそんなに早い(公判の)予定を考えているわけではない印象だった」(小川氏)と受けとめている。
事前協議が10月27日まで行われれば、再審公判は早くても11月以降になる。弁護団は「これまでの例をみると公判から判決まで3カ月程度はかかる」と想定しており、1~2回の公判で結審したとしても、その場合、判決は今年度末に近づく見通しだ。
「検察は有罪立証を模索している」との見方も
態度を明確にしない検察に対し、弁護団の中では「有罪立証をしようと模索している」との見方が出ている。地裁が事前協議の日程を追加したのも、検察が有罪立証することを念頭に置いているためではないかと推測する。
小川氏は会見で検察の対応を「7月10日に示すのが立証方針だけなのかはっきりせず、取調べを請求する証拠の範囲も曖昧だ。有罪立証をするかどうかはすでに決まっているはずで、いたずらに期日を引き延ばしているだけだ」と非難した。
【袴田事件の再審決定後の動き】は以下を参照(編集部)
・〈袴田事件・再審〉冒頭陳述の要旨と証拠調べ請求を7月までに/裁判所が要請も検察は受け入れを留保/第2回事前協議
・〈袴田事件・再審〉9年前に再審開始を決定した村山・元裁判長が述懐/「常識論として捏造しかないと思った」
・〈袴田事件・再審〉検察は「有罪の立証をしない」と表明を/袴田さんの弁護団が申し入れ
◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう)
朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。
(2023年06月24日公開)