第44回を迎えた熊日出版文化賞の贈呈式が3月17日、熊本市内のホテル日航熊本で行われた。河村邦比児・熊本日日新聞社社長が受賞者に表彰状と副賞を手渡した後、選考委員長の幸田亮一・熊本学園大学商学部教授が選考経過を報告した。
今回新設された熊本ジャーナリズム賞には『検証・免田事件[資料集]』(免田事件資料保存委員会編、現代人文社)と『生き直す 免田栄という軌跡』(高峰武著、弦書房)が事件を検証する作品群として2点セットで受賞した。
免田事件資料保存委員会代表の高峰さんと委員の甲斐壮一さんは元熊本日日新聞記者で、免田事件の再審無罪判決(1983年7月15日、熊本地裁八代支部)前後から事件の取材を続け、「検証・免田事件」の長期連載(182回)を熊日新聞紙上で行った。退職後の現在は、甲斐さんと、同じく再審無罪判決前後から取材を続けてきた牧口敏孝・RKK熊本放送記者とともに免田さんから託された支援者・弁護人などとの書簡や裁判資料の整理・保存に取り組んでいる。
高峰さんは「免田さん夫婦と40年近く交流を続けてきたが、2018年に免田さんの奥さんの玉枝さんから『自宅にある資料を冤罪防止に役立ててほしい』という依頼があった。このことが、きっかけで『資料集』を編むことになった。預かった資料から、それまで見えていなかった免田さんの思いが分かった。それは単に濡れ衣を晴らすということにとどまらない、人間としての復活を目指していたことだった。冤罪事件には共通する部分と事件ごとの特殊性のある部分があるが、免田事件には冤罪の“原点”のようなものがあると思う。免田事件には、①なぜ誤った捜査、裁判が起きたのか、②なぜ34年もその誤りを正せなかったのか、③なぜ、免田さんは社会の『刺すような視線』を浴びねばならなかったのか、という3つの問題があると考えており、それはまだ現在進行形の課題だ。新しい資料もあるので、引き続き資料の整理、保存の作業を続けていきたい」と受賞者挨拶で述べた。
従来からあった出版文化賞には『アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック』(NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大文学部付属漱石・八雲教育研究センター編、集広舎)、『熊本地震の痕跡からの学び』(熊本大くまもと水循環・減災研究教育センター減災型社会システム部門編、熊日出版)、『アルメイダ神父とその時代』(玉木讓著、弦書房)の3点が受賞。自費出版を対象とするマイブック賞には『俳壇坂本の会』(小室日和、小室千穂、坂本高穂、坂本節子、坂本真二著、文學の森)が選ばれた。
同賞は県内個人・団体の優れた著作を毎年顕彰するもので、今回は2022年に刊行された約80点を対象に、熊日の社内選考で18点に絞られた後、選考委員7人が2月22日の本選考会で受賞作を決めた。
(な)
(2023年03月23日公開)