伊藤冨士江・上智大学元教授らの研究者グループは2020年と2021年に、犯罪被害者を対象にオンライン調査(量的調査)とインタビュー調査(質的調査)を実施した。これは、科研費(科学研究費助成事業)による調査研究である。
この程、2021年に実施したインタビュー調査結果が同元教授のホームページで公表された。
2004年の犯罪被害者等基本法の制定後、犯罪被害者や家族、遺族(犯罪被害者等)に対する経済的・医療的支援などさまざまな施策が国や地方自治体で整えられてきている。しかし、そうした施策が犯罪被害者等にどのように受け止められ利用されてきたかの実態報告はほとんどなかった。このインタビュー調査は、オンライン調査を踏まえて、犯罪被害者等の生の声をすくいあげたといえる。
インタビュー調査の目的は、犯罪被害による影響、被害後の変化(被害回復)、必要な支援などについて明らかにすることで、調査報告には22名の協力者(被害当事者、家族、遺族)の貴重な語りが収録されている。
協力者22名の居住地は東北、北陸、関東・甲信越、近畿、九州地方で、被害種別は性被害8名、交通被害9名、殺人(傷害致死)4名、強盗致傷1名である。
報告書は、協力者の語りを大切にする形で、つぎの5つのテーマにそってまとめられている。①被害の実態とその影響、②適切だった対応・支援、③不適切/不十分だった対応・支援、④被害後の変化・「回復」とは、⑤被害者支援に関する要望・社会への発信。
協力者から警察、検察、裁判所などに対する要望が多数寄せられている。詳しい内容は報告書にあたっていただきたいが、以下で若干紹介する。
①警察の対応について:「事情聴取・実況見分においては被害者等の負担を考慮してほしい。長時間にわたる事情聴取は被害直後の被害者等にとって大きな心身の負担となる。被害者等の心身状態をつねに確認し、対応してほしい」。「性被害で被害届を受理できない場合や不起訴とする場合には、その理由を丁寧に説明してほしい。勇気を出して警察署に行った被害者側の心情への理解がないと、被害者はさらに傷ついたり絶望感を抱いたりしてしまうことになる」。
②検察の対応について:「事件が不起訴になる場合、あるいは起訴する場合の罪名、求刑については被害者等に分かるような形で丁寧に説明してほしい」。「公判での意見陳述については、被害者等にとっては全くはじめてのことなので十分な事前説明や助言が必要」。
③公判での対応について:「とくに性被害を受けた被害者が公判で証言する場合、被害者への配慮(証人への付添い、証人の遮へい、ビデオリンク方式の措置)について、裁判所の判断によってこうした配慮が行われる/行われないことがあるという点を事前に説明しておくことが必要である」。「公判で、被害者等にとって(防犯カメラ等による)犯罪行為の映像を複数回見ることになるのは、大きな精神的負担になるので、事前の調整をしてほしい」。
④民間支援団体(センター)について:「センターが提供できる支援ついて、被害者等に分かるように丁寧に説明する必要がある」。「将来的には、センターは被害者等にとって地元の身近なところにあって、24時間体制の対応が可能となることが望ましい」。
⑤自治体の犯罪被害者総合対応窓口について:「将来的には自治体に『被害者支援ワンストップ課』のような部署ができて、センター等とも連携しスムーズな支援が展開できるようになるとよい」。
⑥マスコミの犯罪報道について: 「被害者等の声をもとに、報道被害、二次被害を防ぐための取材のあり方、報道の仕方についてガイドラインを作成し、記者研修を行うべきである」。
最後に、研究代表者の伊藤冨士江元教授は、「犯罪被害の問題に長くたずさわっている私にとっても、協力者の方々の語りから多くの新たな気づきを得ることができ、改善すべき被害者支援の道筋がはっきり見えてきたように思います」とインタビュー調査について感想を述べている。
なお、オンライン調査(量的調査)の分析結果の一部は、「2020年犯罪被害者調査」ですでに発表されている。
(2022年12月26日公開)