このほど、日本裁判官ネットワークが、昨年出版の『裁判官が答える 裁判のギモン』に引き続き『裁判官だから書ける イマドキの裁判』を、岩波ブックレットとして出版した。
全体を、「家族の変化と裁判」、「学校・職場のトラブルと裁判」、「事故・事件の解決に向けての裁判」、「社会の新たな動きと裁判」、「気になる刑事裁判」、「ホントに身近になったのかな、裁判」と6つの大項目に整理して、全部で30項目にわたってQ&Aの形で、最新の裁判の動きを追っている。ブックレットであるが、四六判の単行本1冊程度の情報量・内容がある。読んでいくと、裁判も社会の動きをうつしだす鏡の一つであることに気づかされる。
刑事裁判については、各大項目の中で性犯罪やオレオレ詐欺について取り上げられているほか、特に「気になる刑事裁判」の項目では、勾留、責任能力、万引き事件、再審、裁判員裁判、死刑の6項目について触れている。
Q20は「最近、被告人が、保釈中に海外に逃亡したり、保釈取消しに応じずに逃げ回ったりする事例が目につきます。保釈を認めない方がいいのでしょうか?」というQを立てている。そのAで、刑事手続では無罪推定の原則が働いているので、被疑者・被告人は身体拘束されない状態で裁判を迎えるのが原則であるが、ほとんどの被疑者・被告人が勾留され、起訴後の保釈が認められるのは約33%である日本の実情について批判されている。
その理由について、勾留理由と保釈除外事由に〈証拠隠滅のおそれ〉が法律に盛り込まれているため、その判断に裁判官が悩むことをあげている。しかし、〈証拠隠滅のおそれ〉の具体的事由は検察官が示すべきで、裁判官が悩んだら勾留却下や保釈を認容すればよいのではないかと思う。なぜ裁判官が原則とは逆の判断をしがちなのかを知りたいところである。そうした悩む裁判官の意識にも切り込んでいただくと、さらに裁判の現実についての理解が深まることだろう。
日本の裁判官は裁判所の外ではものを語らないことを〈美徳〉としている。日本裁判官ネットワークに参加する裁判官が、これまで、ブックレットや書籍などを通じて積極的に発言してきたことを歓迎したい。それは、〈開かれた裁判所〉の実現に通じるからである。
(な)
(2020年12月24日公開)