法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会で、2017年2月から、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引下げるかどうかについて、再犯防止を目的とする多様な刑事政策的措置とともに、議論が進んでいる。当初は今年2月に答申する予定だったが、先送りされ、見通しはたっていない。
5月26日、少年事件を担当した元裁判官有志が「少年法適用年齢引下げに反対する意見書」を法制審議会に提出した。「民法等により成人とされた18、19歳の年齢層について、少年法の適用を排除した『新たな処分』を新設しようとするものであります。しかし、この年齢層について少年法の適用を排除する合理的根拠は存在」しないと、同部会に対して「歴史の批判に耐え得るような適切な審議」を要請した。
同意見書には、池本壽美子、大内捷司、大塚正之ら9元裁判官が呼び掛け人となって、177人の元裁判官が賛同の署名している。
同意見書では、裁判官としての少年事件実務経験から、少年法適用年齢問題について、下記7点の理由により意見している。
【1】家庭裁判所では、再犯のおそれなど犯罪的危険性の高い18歳、19歳の少年について、家裁調査官の調査、裁判官の審判を通じて内省を深めさせ、被害者に対し真摯に向き合わせるとともに、必要に応じて少年院送致、あるいは保護観察に付するなどして、少年に十分な教育的措置を講じ、非行に陥りやすい環境を調整することを通じて再犯防止を図っている。
【2】家庭裁判所でのこのような少年事件の取扱いについては、部会を始め、学者・実務家の間においても、18歳、19歳の少年について効果的な処遇が実施されていて少年法適用年齢を民法の成人年齢と必ずしも一致させる必要がないとの共通理解のもとで、議論がされている。
【3】 少年非行の件数は年々減少を続けており、現在の取扱いを大きく変更しなければならない事情はない。
【4】 少年事件が刑事事件として扱われると、その多くが懲役刑の執行猶予又は罰金刑となり、少年の非行性が除去されず、内省が進まないまま放置されるおそれがある。更に18歳又は19歳で懲役刑等の前科を有することとなった場合、就職が困難となり、逆に前科があることが勲章となる暴力団等の反社会的集団の予備軍となる可能性が高まる。
【5】 18歳又は19歳の非行少年の多くは高校生又は専門学校生、大学生であり、その非行は、年齢的な抑制力の欠如に起因しており、成人と同様の刑事罰を科すことが非行の抑止力になりにくい。これらの少年は、可塑性が高く、家裁の教育的措置や保護観察、少年院収容などの教育的処遇による立ち直りが期待できる。
【6】 最新の脳科学的知見によれば、18歳、19歳程度の青少年の脳の構造は、大人と異なり、未成熟である反面、可塑性が高く、その時期に教育的処遇を施すことにより、犯罪抑止効果が上がるとされる。米国では、少年に対する厳罰化を改め、その未成熟性に対応する処遇へと変化している。
【7】 部会では、18歳、19歳を成人と少年の中間層として位置づけ、「新たな処分」が検討されているが、その内容自体が曖昧であり、立法化されても、これまでと同じ効果が期待できるか明らかではない。
少年法適用年齢引下げに反対する声明は、これまでに元家裁調査官、元少年院長、刑事法研究者らが出している(声明書は、後掲『少年法適用年齢引下げ・総批判』322頁以下に掲載)。
また、葛野尋之・武内謙治・本庄武編著『少年法適用年齢引下げ・総批判』が、年齢引下げに関して、刑事法・犯罪社会学・児童精神医学・児童福祉各研究者と実務家の視点から批判的に検討している。
(な)
(2020年06月09日公開)