5月17日、テレビ朝日で、不朽の名作『家栽の人』放送


 『家栽の人』がドラマスペシャルとして、テレビ朝日で、5月17日(日)午後9時より放送される。

 原作は、漫画『家栽の人』(作・毛利甚八/画・魚戸おさむ)である。これは、小学館『ビッグコミックオリジナル』で1987年から1996年まで約9年間にわたって連載されたものである。TBSで1993年、1996年、2004年と3度にわたりテレビドラマ化されている。主人公の家庭裁判所の桑田判事を、TBSでは片岡鶴太郎、時任三郎が演じているが、テレビ朝日では船越英一郎が演じる。

 内容は、原作と放映ドラマに譲ることとして、ここでは、原作の毛利甚八さんに触れることにしたい。

 テレビドラマにもなり大ヒットしていた連載は、突然、終了する。そこに何があったのか。原作者の毛利甚八さんは、このとき、漫画で描いた理想の裁判官と家庭裁判所の現実とのあまりにも大きい齟齬に悩んでいたのである。

 「自分が描いている素敵な裁判官の物語は、社会を温めているどころか、本当の裁判所の姿を国民から隠し、誤解を与えている。そして裁判所が良くなることを遠ざける手助けをしているのかもしれない」。

 毛利さん自身が、その事情を、遺作『「家栽の人」から君への遺言』(講談社)で詳しく触れている。

 もともとノンフィクション作家を目指していたので、連載をやめた後、1994年から1998年にかけて民俗学者・宮本常一の足跡を追って日本各地を旅して歩いた。その記録は、『宮本常一を歩く 上・下』(小学館)としてまとめられ、ようやく念願を果たしたのである。

 漫画『家栽の人』がヒットしたときは、折しも、日本は、司法制度改革の時代に突入していた。硬直化している裁判制度を改革しようとする機運が司法界で高まっていた。

 毛利さんには、弁護士会や市民グループから講演や出版社から原稿依頼が入り、いやおうなく裁判の現実に引っ張り込まれたのである。現職や元裁判官へのインタビューに基づいて裁判官の姿をいきいきと描き出した『裁判官のかたち』を出版した後、現実の裁判への取材はさらに深まっていく。少年院の篤志面接員になり、少年院の現場にのめり込んでいく。そのときの少年たちとの交流をレポートした『少年院のかたち』を出版する。

 1999年、甲山事件の冤罪被害者の山田悦子さんとの出会いをきっかけに、季刊刑事弁護誌上で、「事件の風土記」を連載し、鹿児島選挙違反事件免田事件福岡事件狭山事件松川事件など多くの冤罪事件を写真と文で描いた(後に、刑事弁護オアシスで転載)。

 しかし、2015年11月、癌のために亡くなった。享年57歳だった。

 このテレビドラマを見た後、ドラマの中の裁判官の姿と毛利さんが後にレポートした裁判官や少年院の現実とを比較したとき、そこにどのような世界が浮かび上がってくるのだろうか。

 (な)

(2020年05月15日公開)


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