ニュースレター台湾刑事法の動き(第2回)

台湾監獄行刑法の全面改正/仮釈放の不許可・取消に対する不服申立制度の創設など


台湾刑務所全景
台湾刑務所全景

1 はじめに

 2019年12月17日に、立法院(台湾における国会にあたる)で、台湾の監獄行刑法の改正法案が可決・成立した。今回の同法の改正は、9年ぶりの改正であり、条文数が94条から156条へと大幅に増えた。

 今回の改正は、今までの司法院大法官解釈と整合するようにするとともに、国際条約1)と外国の立法例2)を参考にして行われた。大法官解釈にもとづいた改正の例としては、満期受刑者が出所する時間の明文化(大法官解釈第677号)、仮釈放の不許可・取消に対する不服申立制度の創設(大法官解釈第691号、第681号)、受刑者に対する表現の自由と通信の秘密の保障(大法官解釈第756号)など、を挙げることができる。以下では、監獄行刑法の章別に、重要な改正内容を紹介する。

台湾刑務所接見(面会)入口
台湾刑務所接見(面会)入口

2 法改正内容の概観

【1.「総則」関係】

 (1)  監獄行刑法の目的は、改正前は「懲役、拘留の執行は、受刑者を改悛させ、社会生活に適応させることを目的とする」こととされていた。これに対して、改正後の条文は、行刑の目的が矯正処遇と受刑者に社会生活の能力を培わせることにある旨を明示した(監獄行刑法1条、以下「法」と呼ぶ)。

 (2)  国際条約における成人受刑者と少年受刑者の処遇分離という原理と、受刑者の教育を受ける権利を保障するため、受刑者が23歳を超えたとしても、その者の年齢に応じた義務教育がまだ修了していない場合には、監督官庁の同意により、成人と同じ監獄に収容せず、少年矯正学校に収容する旨を定めた(法4条)。

 (3)  監獄の職員が職務を遂行するにあたり、受刑者の尊厳を尊重してその人権を守ること、矯正処遇という目的達成に必要な限度を超えないよう比例原則を遵守すること、差別をしないこと、身体・精神障害のある受刑者に対して適宜のバリアフリーのための措置をとること、積極的かつ適切な方法と措置により、受刑者がその処遇と刑罰執行の目的を理解できるように努めること、受刑者に対する単独室の収容は15日を超えてはならないことなどが明文化された(法6条)。

 (4)  監獄透明化原則を確実にし、受刑者の権利を保護するため、監獄から独立した外部の視察委員会を設置するとともに、同委員会は定期的に報告書を提出し、当該報告書において指摘された事項について関係各官庁が検討する旨が規定された(法7条)。

【2.「収容の開始」関係】

 (1)  処遇効果の向上および受刑者の円滑な社会復帰のため、入所後3ヵ月以内に、その者の性格、心身状態、経歴、教育の程度その他調査事項に基づき、個別処遇計画を定めなければならない旨の規定が追加された(法11条)。

 (2)  子どもの権利に関する条約における子ども自身の最善の利益のため、監獄内での育児が可能となった。その一方、監獄側も必要な施設を提供し、社会福祉の主務機関も適宜必要な援助を提供しなければならない旨が義務付けられた(法12条)。

 (3)  受刑者に収容期間における権利と義務を理解させるため、監獄側は重要な権利義務について受刑者に告知しなければならず、関連規定を明示したパンフレットを制作し、交付しなければならない旨が定められた。また、受刑者が身体・精神障害者、中国語を理解できない者、またはその他の理由により、権利と義務の内容を十分に理解できない者である場合、監獄側は適宜協力しなければならない旨が定められた(法15条)。

【3.「監禁」関係】

行刑の社会化の理念に基づき、受刑者の収容は、共同室にすることが原則とする旨が定められた(法16条)。また、人道主義の要請と矯正処遇の機能を満たすため、移監(過剰収容の状況を解消するために、必要なとき、受刑者をある監獄から他の監獄に移すことを指す)の要件と手続が明文化された(法17条)。

【4.「戒護」関係】

 (1) 監獄の秩序と安全を確保するとともに、受刑者の権利を保護するため、受刑者の隔離保護の要件と手続を新設した(法22条)。

 (2)  戒具の使用要件、保護室への収容の要件・手続・期間に関する条項の新設(法23条)、監獄の職員の武器の携帯および使用に関する規定の改正(法25条)が行われた。

【5.「刑務作業」関係】

 (1)  刑務作業の項目と内容は、受刑者の刑期、健康状況などを考慮したうえ、個別処遇計画にこれを定めなければならず、監獄側が適宜職権を持ってこれを調整する旨が定められた(法31条)。

 (2)  作業の時間は、原則として毎日8時間を超えてはならず、特別な事情がある場合は、受刑者の承諾を得たうえで、作業の時間を12時間まで延長することができる旨が定められた。この場合には、残業労作金を支給しなければならないとした(法32条)。

 (3)  刑務作業に従事する受刑者に、刑務作業の収益の60%を受刑者労作金に充当し、同作業に従事した受刑者に対して支給しなければならず(法36、37条)、作業または職業訓練によって受刑者が死亡もしくは疾病を罹患した場合、補償金を支給しなければならない旨が定められた(法38条)。

【6.「教化」関係】

 (1)  修復的司法を推進するため、監獄側が専門家または専門機構、法人団体を受刑者に紹介し、被害者との関係を修復することができる旨が定められた(法42条)。

 (2)  受刑者の社会復帰のため、監獄側が適宜IT設備を受刑者に提供することができる旨が定められた。また、受刑者の心身の健康を増進するため、監獄側が適宜文化活動または余興活動を行わなければならない旨が定められた(法44条)。

【7.「衛生及び医療」関係】

 (1)  監獄側は受刑者の心身状況を把握し、疾病予防、医療、スクリーニング、伝染病予防及び飲食衛生などの事項を管理する。監獄は規模、受刑者の性質により、夜間または休日に戒護医療の必要性を判断するため、その資源を用いることができる範囲内において、医療スタッフを配置する旨が定められた。また、衛生に関する主務機関が、医療衛生にかかる事項について定期的に監督・協力・改善を行う旨も定められた(法49条)。

 (2)  他の法律の定めがある場合を除き、受刑者の同意をえたとしても、受刑者を健康を損なう医学または科学上の臨床試験に動員させてはならない旨が定められた。受刑者の血液、その他の検体を目的外で利用してはならない旨も定められた(法66条)。

【8.「通信交通権」関係】

 (1)  受刑者と弁護人との間の面会において、監獄の職員が立ち会うが、受刑者に有効な法律援助が与えられるように、弁護人との面会の際に、その面会の状況を聴聞することができない旨が定められた。また、事実上の困難がある場合を除き、面会の回数と時間を制限することができない旨が定められた(法72条)。

 (2)  受刑者または面会者の請求があり、その請求に相当な理由があると認められる場合、電話またはその他通信手段を使用することができる旨が定められた(法73条)。

 (3)  受刑者の通信・投稿の権利を保護するために、信書の開封は、違法物の有無の確認に限って認められる旨が定められた。受刑者が発受する信書について、監獄側が検査を行うことができ、一定の条件を満たす場合、信書内容の閲覧、一部を抹消することも認められた。また、受刑者が発送した信書が、投書と認められる場合、雑誌またはマスコミに投稿することができる旨が定められた(法74条)。

【9.「陳情、異議申立て及び起訴」関係】

受刑者の異議申立ておよび司法による救済の権利を保障するため、陳情、異議申立ておよび起訴(行政訴訟の提起を指す)の規定を新設した(法90条から114条まで)。

【10.「仮釈放」関係】

仮釈放が不許可、取消または廃止された場合、受刑者は不服を申し立てることができ、不服申立てに対する決定にさらに不服がある場合、裁判所に提訴することができることとなった(法115条から137条まで)。

【11. 「釈放と保護」関係】

受刑者の刑の執行が満了するとき、刑期終了の当日の午前中に釈放しなければならない旨の規定が明文化された(法138条)。また、高齢者、重病者、心身障害により自力で生活できない者を釈放する際には、釈放前に、その者の家族、または受刑者が適当と認める者に通知しなければならず、通知できない場合または通知して拒否された場合、社会福祉の主務機関に通知し、必要な措置またはその他の場所に収容させる措置をとらなければならない旨も定められた(法142条)。

3 おわりに

今回改正された内容は、2020年7月15日に施行される。今回の法改正により、監獄における受刑者の人権を一層守ることが期待されている。

●参考資料

  1. 監獄行刑法の条文(中国語)

https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=I0040001
(2020.2.27)

  • 監獄行刑法修正草案の総説明(中国語)

https://www.moj.gov.tw/dl-32600-98a1382ca17d4c3c898f33b02b12531d.html
(2020.2.27)

  • 立法院監獄行刑法改正草案アセスメント結果報告書(中国語)

https://www.ly.gov.tw/Pages/Detail.aspx?nodeid=5249&pid=191348 (2020.2.27)

  • Taiwan Today 改正「監獄行刑法」が可決、被収容者の人権保護が強化(日本語ニュース)

https://jp.taiwantoday.tw/news.php?unit=148,149,150,151,152&post=168011
(2020.2.27)

  • 法務部ニュース「立法院三讀通過『監獄行刑法』修正:落實獄政革新,保障矯正人權」(中国語)

https://www.moj.gov.tw/cp-21-124557-41b1c-001.html (2020.2.27)

◎執筆者プロフィール

洪 士軒(コウ・シケン)

国立台湾大学公衆衛生学部及び同物理学部(副専攻)を卒業後、同大学院科際整合法律学研究科(法務研究科)修了。2011年台湾司法試験(弁護士)合格。2014年台湾台北弁護士会登録。2020年3月早稲田大学博士(法学)取得。研究テーマは監獄(刑務所)行刑法、触法精神障害者の処遇、保安処分。

【出版物】

・『刑務所受刑者の医療人権の考察(中国語:「監獄受刑人醫療人權之初探」)』(修士論文)2013年。

・「触法精神障害者に関する対応策をめぐる「人権保障」と「公共の福祉」との相克についての考察――改正刑法草案における「保安処分」を中心に」早稲田法研論集166号、167号(2018年6月、9月)。

・「台湾における触法精神障害者に対する保安処分(監護処分)の認定傾向――関連裁判例を材料として」早稲田法研論集172号(2019年12月)。

【翻訳】

・共同翻訳に、李茂生監訳『冤罪論:關於冤罪的一百種可能』(商周出版、2015年。第5章訳者。原作:森炎著『教養としての冤罪論』岩波書店、2014年)。

注/用語解説   [ + ]

(2020年05月15日公開)


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