政府は、4月7日、新型コロナウイルス感染症対策として、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、7都府県を対象とする緊急事態宣言を発令した。16日には、さらに全国までその範囲を拡大した。
それに伴い、最高裁判所をはじめとして各裁判所では、刑事裁判などの期日を延期する措置をとっている。
また、法務省は11日、東京拘置所に収容されている60代の被告人の男性が新型コロナウイルスに感染したと発表したが、刑事施設の収容者で感染が確認されたのは初めてである。さらに、17日、大阪拘置所に勤務する40代の男性刑務官が新型コロナウイルスに感染したと発表した。これで同拘置所の刑務官の感染は計8人になる。
これら拘置所では、多くの刑務官が自宅待機となったため正常な事務管理体制の維持が困難となり、現在一般面会を中止している。
東京では、渋谷警察署に勾留されていた20代と50代の男性が新型コロナウイルスに感染している。このため警視庁は、留置場の担当者や取調べを行った捜査員ら10人を自宅待機としている。
このように刑事施設などにも新型コロナウイルスの感染が拡大している。こうした中、日本弁護士連合会(会長・荒中)は、4月15日、「刑事裁判の期日延期等に関する会長声明」を出した。
声明の中で日弁連は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止措置を講ずる必要性があることに異論はないとするが、「感染拡大防止の観点を重視するあまり、必要最小限度を超えた被告人の人権制約がなされてはならない」として、迅速な裁判を受ける権利を最大限尊重するよう要望した。特に身体拘束されている被告人にとっては、その長期化により被る不利益は甚大であるとして、裁判所に対し、次の3点を求めた。
1. 身体拘束中の被告人についての公判期日の延期は、事案に応じて、弁護人の意見を聴いて慎重に行うこと。やむを得ず公判期日を延期する場合には、勾留の執行停止、勾留の取消しや保釈の許可を柔軟に行うこと。
2. 身体拘束の継続が避けられない場合には、延期後の公判期日をできるだけ早期に指定すること。
3. 公訴事実に争いがなく、執行猶予判決が見込まれる事件では、第1回公判期日において判決の宣告まで行う等、被告人の身体拘束が長引かないよう最大限の配慮を行うこと。
4月20日、法務省は、「特定警戒都道府県に所在する刑事施設における面会の取扱いについて」を発表した。これによると、新型コロナウィルス感染防止を理由に、東京、大阪など特定警戒都道府県に指定された13都道府県にある拘置所や刑務所では、被告人や受刑者が弁護人(弁護人になろうとする者を含む)以外と面会する一般面会を原則として許可しないと発表した。
一方的な面会制限は法的根拠に無理があるのではないかと、弁護士から疑問視されている。また、家族や友人などとの面会禁止措置により、外部との連絡手段が弁護士だけになり、弁護人の負担がますのではないかと不安を口にする弁護士もいる。
このような事態の中では、裁判所は、日弁連の要望に対して応える必要性が増すものと思われる。
(2020年04月21日公開)