坂上香監督作品PRISON CIRCLE、全国で上映中


 先日、大阪の十三にある第七藝術劇場でこの映画を観た。たいへん盛況で立ち見が出るほどであった。この種の映画はあまりはやるものではないので、ひと安心した。

 ドキュメンタリー映画を観るとき、どうしても身構えてしまう。とくに刑務所のドキュメンタリーとなるとなおさらである。この映画も例外ではない。そこに収容されているのは、なんらかの罪を犯した人たちで、高い壁を隔てた別世界、自分には縁がない世界であるからだろうか。

 映画の中身については、あまり触れないでおくが、映画の最後のところで、舞台となった島根あさひ社会復帰促進センター(島根県浜田市)の再入率が全国平均の半分以下であるというテロップが流れる。

 刑事施設出所者の再入率とは、各年の出所受刑者人員のうち、出所年を1年目として、2年目(翌年)の年末までに再入所した者の人員の比率をいうが、平成26年の再入率の全国平均は18.5%で、島根あさひは4.7%である(『PFI手法による刑事施設の運営事業の在り方に関する検討会議報告書』〔平成29年3月〕)。

 この数字の差はどこから生れてくるのだろうか。この映画は、その数字を納得させる。数字からは見えない施設で行われている受刑者に対する社会復帰プログラム、施設職員と受刑者の努力が映し出される。

 現在、監獄という言葉は法律にはない。明治41年にできた監獄法が廃止され、2005年に刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事施設法)に生まれ変わったからである。この法律では、受刑者の処遇目的を、つぎのように謳っている。「受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする」。

 法律が変わったからといって、古い体質をもっている刑事施設での受刑者の処遇がすぐに劇的に変化するものでない。法律の目的は崇高なものであるが、達成するのはいかに困難であるかは受刑者の処遇や社会復帰に関心ある者は誰でも知っている。

 そうした困難を乗り越えようと新しいこころみをしているのが、島根あさひ社会復帰促進センターである。同じような施設は、現在、美祢社会復帰促進センター(山口県・美祢市)など全国に5カ所ある。

 6年もの法務省とのねばり強い交渉で、ようやく刑務所の内部にカメラが入った。そのことは、映画の画面のところどころに垣間見られる。自由に撮影できなかったことは、いかにもどかしかったことであったか。受刑者の顔にボカシなどが入っているが、それは邪魔にならない。坂上香監督のねばり強さに感服させられる。

 また、受刑者の成育過程は、若見ありさ氏のアニメーションでみごとに再現されている。

 映画の最後のシーンは、刑期を終えた一人の青年を追う。センターから社会に戻るバスの中の様子、そして大阪梅田駅前から現実社会へ消えていく。

 そのあと、冒頭で触れた再入率のテロップが流れる。

 この青年は果たして本当に社会復帰できるのであろうか。私たちの社会が彼らを受け入れ支援することができるのであろうか。不安がよぎった。坂上監督は、次回作品できっとそこに応えてくれるだろう。

○PRISON CIRCLE(プリズン・サークル)[2019年作品]

・監督・製作・編集:坂上香
・撮影:南幸男・坂上香

・録音:森英司

・アニメーション監督:若見ありさ

・音楽:松本祐一 ・鈴木治行

・製作:out of frame

・配給:東風
・上映時間:136分

・公式 WEB サイト:www.prison-circle.com

(2020年02月21日公開)


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