再審(裁判のやり直し)の審理手続きを法制化しようと、冤罪被害者や弁護士らが「再審法改正をめざす市民の会」を結成した。法規定がないために、審理の方法や証拠の取扱いが裁判官の裁量で異なったり(再審格差)、再審開始を検察が不服申立て(抗告)で阻止しようとしたり(再審妨害)している現状を問題視。今後、刑事訴訟法の改正要綱を作るとともに、国会での議員立法へ向け超党派議員連盟の設立を働きかける。
結成集会が5月20日に国会議員会館で開かれ、約160人が参加した。当面は、①再審のための証拠の全面開示、②検察の不服申立て禁止、③再審手続きの整備――を中心テーマに据えて活動するとした会則を承認。共同代表に、映画監督の周防正行氏、冤罪被害者の青木恵子氏(東住吉事件)と桜井昌司氏(布川事件)、元裁判官の木谷明弁護士、元日本弁護士連合会(日弁連)会長の宇都宮健児弁護士ら7人が就いた。
共同代表の村井敏邦・一橋大名誉教授は「再審は誤判救済の制度だと明らかにするために法改正が必要だ」と強調。周防氏は「今の法律は『再審ができます』と言っているだけで、その後の手続きは決められていない。そのために不正義がまかり通っていることを、国会議員には理解してほしい」と述べた。
また、木谷氏は、裁判官時代の経験をもとに「再審請求は裁判所内で審理を進めるよう催促されることもないので、裁判官は平気で寝かせておく。せめて『何カ月以内に何をする』といった審理の方法を裁判官に強制する法制度が必要だ」と指摘した。
集会では、1966年の「袴田事件」で死刑が確定した袴田巖さん(83歳)の弁護団長を務める西嶋勝彦弁護士が講演。審理手続きの規定がないことで、再審請求をした際に、①進行協議の場が保障されず、協議が実施されても記録化されない、②証人や鑑定の申請に対する裁判所の応答が義務づけられていない、③手続きが非公開のため、当事者やマスコミには進行状況や内容が分からず、監視の目も届かない――といった弊害を列挙し、「裁判所と検察官の恣意を許している」と語気を強めた。
さらに、袴田事件では第2次再審請求審になってようやく、取調べの録音テープや約600点の初期捜査記録が開示されたことに触れて「有罪の立証を終えた検事に未提出の証拠を隠す理由も必要性もない」と批判し、全面的な証拠開示、最低でも証拠リスト開示の規定を置くよう求めた。
参加者の耳目を集めたのは、鹿児島県で1979年に起きた「大崎事件」の鴨志田祐美・弁護団事務局長の発言だ。殺人罪が確定し懲役10年の刑期を終えた原口アヤ子さん(91歳)に対し、2002年以降、高裁と地裁で計3回の再審開始決定が出たものの、いずれも検察が抗告したため確定せず、現在も最高裁で審理が続く。
「原口さんは6月15日で92歳になるが、検察の理由のない引き延ばしによって、事件から40年経っても救われていない。再審制度不備の悲劇だ」と力を込め、「今年を再審法改正元年に」と訴えた。
(ライター・小石勝朗)
(2019年06月11日公開)