6月1日、東京・霞が関の法曹会館で、日本裁判官ネットワーク著『裁判官が答える裁判のギモン』(岩波ブックレットNo.998)の出版記念祝賀会が行われた。
会のはじめに、日本裁判官ネットワークの浅見宣義氏より、本書刊行の経緯が報告された。2016年に出版した『希望の裁判所——私たちはこう考える』(LABO刊)について、周防正行監督から「これはいい本だけど、やっぱり一般の人たちは、まだまだ裁判や司法のことをホントにわかっていないよ」と指摘された。そのことがショックで、それが切っ掛けで、それではもっとやさしく、面白いものをとネットワークメンバーが知恵を出し合って、本年4月に出版したという。今回は、いま話題になっている裁判官によるSNS使用や痴漢えん罪への対処法について触れているが、意見が分かれるところで、まとめるのがむずかしかったと苦労を語った。
その後、『モーニング』に連載している漫画『イチケイのカラス』の作者・浅見理都氏と、その漫画の主人公・坂間真平特例判事補が配属された第一刑事部の部長判事のモデルとなった木谷明元裁判官、文中の言動などを参考にした原田國男元裁判官らが、座談会を行った。
浅見理都氏は、刊行1年以上前から構想をねって取材を始めたことや、はじめて木谷元裁判官に会うときはこんな風貌でないと怒られるのではないかと心配したことなど制作のエピソードを披露した。最後に、漫画を描いていて常に頭にあったのは、「自分が何かしでかしたときに、こんな裁判官に裁いて欲しい」という理想の裁判官像だったと締め括った。
本書は、刑事事件、民事事件、家事事件、少年事件、裁判一般、裁判官各編をQ&A形式で執筆され、最後にまとめ編で法律家歴30年以上の現役または元裁判官による座談会が収録されている。
そこでは、刑事裁判について「全体にはほぼ良い方向になってきている」と評価し、それは裁判員裁判の影響ではないかとしている。
やさしく読めるようたいへん工夫を重ねているようだが、裁判の全体を網羅したためか、各事件編の項目が厳選されているため、その内容の厚みが物足りないように思えた。次回作を期待したい。
(2019年06月14日公開)