
再審(裁判のやり直し)制度を拡充するための刑事訴訟法改正を開会中の通常国会で実現させようと、日本弁護士連合会(日弁連)は3月25日、「今国会での再審法改正の実現を求める院内会議」を東京・永田町の衆議院第1議員会館で開いた。超党派の国会議員連盟による議員立法へ向けた取組みの状況が報告され、議連に加入する議員は今国会(会期は6月までの予定)での成立に尽力する意向を表明した。一方で、再審制度の見直しを法制審議会(法相の諮問機関)に諮問すると決めた法務省の動きを警戒する発言もあった。
証拠開示や検察の不服申立て禁止を盛り込む
昨年3月に発足し約380人の議員が加入する「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」会長の柴山昌彦・衆院議員(自民)は、集会前に開いたこの日の議連総会で刑訴法改正の要綱案が了承されたことを紹介し、「誰もがいつ冤罪という人権侵害に遭うか分からない。一刻も早く、何としても今国会で成立させたい」と決意を述べた。法制審に諮問する法務省の動きを意識し、国民を代表する議員でつくる国会=立法府が制度設計をする意義にも言及した。

議連事務局長の井出庸生・衆院議員(自民)が要綱案の内容を説明した。最大のポイントの証拠開示では、再審請求人が証拠や証拠リストの開示を求めた場合に、裁判所は必要性と弊害を考慮して相当と判断すれば検察に開示命令を出すよう義務づける。また、裁判所の職権で開示命令を出すことも可能とし、裁判所だけに証拠を提示させて開示の可否を判断するインカメラ審理の規定も盛り込む。もう1つのポイントである再審開始決定に対する検察の不服申立て禁止をうたうほか、確定審にかかわった裁判官の除斥・忌避、再審請求審の期日指定や調書作成について定める。
井出氏は「バランスが取れた現実的な案になった」と自信を覗かせ、今後各層の意見に耳を傾けながら条文をまとめ、今国会への提出・成立をめざす方針を示した。
会場を訪れた国会議員が1人ずつ挨拶に立ち、早期法制化の必要性や意気込みを口々に語った。そんな中で議員立法への「妨害工作を見聞きしている」と漏らす自民議員もいて、法改正が容易には進まないおそれがあることを印象づけた。
「冤罪を訴える皆さんが苦しんでいる」と袴田秀子さん
集会には冤罪被害者も参加し、声を上げた。
死刑判決の確定から約44年ぶりで昨年10月に再審無罪が確定した袴田巖さん(89歳)の姉・秀子さん(92歳)は「巖は最近、素直に言うことを聞くようになった」と弟の変化に触れたうえで、「巖だけが助かれば良いとは思っていない」と心情を吐露した。かつての自分たちと同様に、再審法制の不備によって「冤罪を訴える皆さんが苦しんでいる」と指摘し、「今国会で改正を」と力を込めた。
冤罪で逮捕・起訴され約11カ月間にわたり身柄を拘束された大川原正明さん(大川原化工機社長)も「捜査機関が隠している証拠を開示して、速やかに再審が始まる仕組み」を要望した。

このあと、市民団体「再審法改正をめざす市民の会」の共同代表を務める映画監督の周防正行さんが講演。法制審特別部会の委員を務めた経験を踏まえ、「検察官が法務官僚として立法の一翼を担い、捜査官も務める二面性に大きな問題がある」「法務検察は最小限の改正にとどめるため『お抱え組織』の法制審に諮問しようとしている」との見解を示し、「再審法改正は議員立法でやらないと実現しない」と強調した。
日弁連も会場で配布した資料に「審議会は法務省が任命する委員により審議され、結論が出るまで結果的に年単位の時間を要している場合が多くある」と記した。さらに、最高検が昨年末に公表した袴田事件の検証報告書によって「再審法改正の必要性と具体的な内容がさらに明らかになった」と指摘。改正のポイントが明確なことや高齢の冤罪被害者を一刻も早く救済する必要があることを挙げて「国会主導による早期改正」を主張している。
集会の最後に参加者全員で「再審法改正」「今こそ実現」と書かれたカードを一斉に掲げ、早期の法改正をアピールした。
◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう)
朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。
【編集部からのお知らせ】

本サイトで連載している小石勝朗さんが、2024年10月20日に、『袴田事件 死刑から無罪へ——58年の苦闘に決着をつけた再審』(現代人文社)を出版した。9月26日の再審無罪判決まで審理を丁寧に追って、袴田再審の争点と結論が完全収録されている。
(2025年03月28日公開)