
2025年2月28日、今西事件シンポジウム「逆転無罪判決を総括する」が開催された(共催:イノセンス・プロジェクト・ジャパン〔IPJ〕、SBS検証プロジェクト)。昨年11月28日の大阪高裁で無罪判決が言い渡されるまでの経緯と、本件の教訓について、報告がなされた。
大阪の会場には、今西貴大さんを支援する会、日本国民救援会の方々、学生ボランティアなども参集し、100人以上が集まった。
今西事件逆転無罪判決の位置づけ
今西事件は、娘のA子ちゃんに対する傷害致死罪などの疑いで、父親の今西貴大さんが起訴された事件である(控訴審にて逆転無罪判決、現在は検察が上告中)。本件は、SBS/AHT仮説の妥当性・科学性が争点となった事件である。弁護団には、川﨑拓也、秋田真志、西川満喜、湯浅彩香、川﨑英明各弁護士がいる。
最初に川上博之弁護士は、本判決の意義を「裁判所が検察による立証の不十分性を認めた点にある」という。また、「専門家による意見への過剰な信頼・依存という裁判官側の問題と裁判官側に受け入れられやすい過剰な意見を出すことがあるという専門家証人側の問題を、鋭く指摘する判決でもあった」と振り返る。
今西事件控訴審を医学的に検証する
弁護側の専門家証人である小保内俊雅医師は「死因究明や診断は、事実に基づく、飛躍や推論のない考察であるべきだ」と訴えた。その後、A子ちゃんの脳内の写真を用いた、本件における死因究明についての詳しい解説がなされた。
続いて秋田真志弁護士は「医師の判断の妥当性を支えるのは、エビデンスと論理であるが、検察側の医師の多くは、結論先にありきな議論を展開している」と指摘した。エビデンスと論理を大切にし、これらを裁判で生かしていくべき、というのが本件の教訓であるという。
これまでを振り返って
当事者の今西貴大さんは、控訴審における無罪判決について、「言葉にはし難いが、ホッとした」と述べた。しかし、本件は現在、検察が上告中であるため、一刻も早く「被告人」という立場から解放されたい、とも繰り返した。加えて、「早く言え」と自白を迫られたなど、過酷な取調べの状況を語り、取調べ時に隣に弁護人がいることの必要性を訴えた。
続いて川﨑拓也弁護士は「判決を聞いたときは嬉しかったが、本判決は、立証責任は検察側にあるという当たり前のことを言っており、もっと早く無罪にしてほしかった」と振り返った。また、事件報道のあり方についての問題提起を行った。メディア側は、犯人と断定しない言い回しや、(逮捕だけでなく)公判の報道を積極的に行うべきで、見る側は、報道が必ずしも真実ではないというリテラシーを持つ必要があるという。加えて、実名報道は本当に必要か、も今後の検討課題であるとした。
その後、今西事件弁護団の3名、今西貴大さんを支援する会、日本国民救援会、IPJ学生ボランティアから、今西事件の無罪判決確定に向けた支援の声があった。
最後に、IPJ事務局長の笹倉香奈教授は、この種の事件でいまも危うい訴追が行われているとして、医師による証言のエビデンスを確かめる必要性を強調した。
SBS/AHT仮説においてはもちろんだが、専門家による証言を盲信しないことは、あらゆる刑事事件において重要といえるだろう。今後の訴訟において、今西事件の教訓が生かされることを期待したい。
なお、シンポジウム当日に、検察官による上告趣意書提出期限が本年5月30日であるとの連絡が、最高裁から弁護団の元に来たとの報告があった。
控訴審の判決文は、大阪高判令和6・11・28(LEX/DB25621501)、SBS検証プロジェクトHP内ブログ「SBSを考える」を参照。また、関連書籍として『赤ちゃんの虐待えん罪——SBS(揺さぶられっ子症候群)とAHT(虐待による頭部外傷)を検証する!』(現代人文社、2023年)がある。
(お)
(2025年03月21日公開)