3月9日、第22回季刊刑事弁護新人賞の授賞式と記念セミナーを、TKC法廷教室(東京)で開催


受賞者のみなさん。最優秀賞の竹下順子さん(中央)、優秀賞の拝地旦展さん(右端)、特別賞の松本亜土さん(2025年3月9日、(株)TKC東京本社の法廷教室にて)。

 第22回季刊刑事弁護新人賞(主催:現代人文社、協賛:株式会社TKC)の授賞式が、3月9日、(株)TKC東京本社の法廷教室で開催された。授賞式後に行われた記念セミナー(共催:刑事弁護フォーラム、現代人文社)では、高野隆弁護士(第二東京弁護士会)が「刑事弁護と弁護士倫理」をテーマに講演した。

 授賞式では、最優秀賞の竹下順子さん、優秀賞の拝地旦展さん、特別賞の松本亜土さんにそれぞれ賞金と副賞(フクロウの置物)が贈呈された。

 受賞者のプロフィールはつぎのとおりである。

・竹下順子(たけした・じゅんこ)さん 福岡県出身。2017年、九州大学法科大学院卒業。2019年、弁護士登録(72期・佐賀県弁護士会)。現在、隈法律事務所に所属。

・拝地旦展(はいち・あきひろ)さん 大阪府出身。2021年、京都大学法科大学院卒業。2022年、弁護士登録(75期・大阪弁護士会)。現在、後藤・しんゆう法律事務所に所属。

・松本亜土(まつもと・あど)さん 兵庫県姫路市出身。甲南大学法科大学院卒業。2022年、弁護士登録(74期・大阪弁護士会)。現在、関西合同法律事務所に所属。

 選考委員の一人である宮崎翔太弁護士(広島弁護士会)は、今回の新人賞について、つぎのように述べた。

 「私は、65期で若手弁護士を指導する立場にもなってきております。最近、若手弁護士から、刑事弁護は取っ付きにくいという意見をよく聞きます。その原因は、刑事弁護には正解があって、それを外すと被疑者に迷惑がかかるし、自分がたいへんなことになるということのようです。それに対して、正解はないよと回答するのですが、あるとしたら、一つひとつの事件に情熱を傾けることにあると思うようになりました。そこで、私の選考基準としては、その点に重きをおきました。今回の受賞者はたいへん情熱をもって各事件に取り組んでいた。なによりもこのレポートから、自分の刑事弁護についてこれではいかんと思わされた」。

 竹下さんのレポートは、我が子の腕が骨折していたことから父親が傷害罪で起訴された「子どもの虐待えん罪」事例。骨折が生じるあらゆる原因と可能性を検討し、それを立証できる協力医を見つけ出すことに成功した。その結果、救急外来での研修医の処置の際に骨折が生じた可能性のあることがわかった。2年7カ月にわたり弁護活動を展開して、最終的に一審無罪判決を獲得(検察官控訴が二審で棄却され、無罪確定)。

 竹下さんは、「無罪の獲得までに、たくさんの人に助けられた。当時、私も刑事弁護に正解があると思っていましたので、私の経験不足でこの被告人がえん罪になったらどうしょうと寝られない日々があった。そうした不安はありましたが、佐賀県弁護士会の先輩・同僚から助けをいただいて、なんとか無罪にすることができました。今後も、刑事弁護の研鑽を怠らないで邁進したい」と受賞の喜びを述べた。

 また、拝地さんのレポートは、詐欺・詐欺未遂被疑事件の被疑者から警察留置官に「被疑者ノート」を検閲されているとの申し出を受け、それに対処した事案。準抗告、特別抗告、移送申立て、勾留理由開示、抗議書などあらゆる手段をとって、被疑者の黙秘権と秘密交通権を確保し、最終的に嫌疑不十分・不起訴処分にいたった。

 司法修習生のころから新人賞を取りたいと思っていたという拝地さんは、「手探りの状態でしたが、事務所の先輩から勾留理由開示のアドバイスをいただいて、それが大きな力となってKさんの権利を守り、不起訴となった。この賞をはげみに日々の刑事弁護をさらに磨いていきたい」と意気込みを語った。

 そして、松本さんのレポートは、上記レポートのような個別事件の弁護活動報告ではない。女性の被疑者は、留置施設や取調べでブラジャーの着用を禁じられている。女性の被疑者が、腰縄でTシャツの上から締め付けられ、身体の線が出る状態で取調べを受けていることに疑問を感じて、女性の被疑者が、留置施設においてTシャツ型ブラトップの貸し出しを受けることができるよう、関西圏の警察ばかりでなく全国の警察に働きかけた事案である。

 松本さんは、「弁護登録2年目でしたが、留置施設でのTシャツ型ブラトップの貸与制度の実現に、半年あまり取り組んだ。当初、警察などにどう申し入れしたらよいか不安でしたが、刑事弁護委員会の先輩や、イノセンス・プロジェクト・ジャパンのみなさんのアドバイスをいただいて、この問題に取り組むことができた。さらに個々の事件にもがんばりたい」と抱負を述べた。

 いずれのレポートも、季刊刑事弁護121号(2025年1月20日発売)に掲載されている。また、受賞作は、本サイトの「季刊刑事弁護新人賞」のページでも見ることができる。

 第23回季刊刑事弁護新人賞作品の応募も始まっており、応募要項は同ページに掲載されている。

(2025年03月17日公開)


こちらの記事もおすすめ