
2023年12月、「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」(以下、改正法)が成立した。これにより、大麻の医療利用が可能になる(製剤化された医薬品に限る)と同時に、大麻の使用も処罰対象となった。新体制になってから、早くも3カ月が経過した。
そんななか、3月2日に長吉秀夫ほか「リレートーク:大麻新時代」セミナー(主催:一般社団 法人刑事司法未来、共催:幻冬舎カルチャー)が開催された。『あたらしい大麻入門』(幻冬舎、2025年)の著者・長吉秀夫さんを中心に、各分野のゲストを交えたトークが展開された。
このたびの法改正を含め、大麻政策における問題点が改めて明らかになったように思われる。5年後の改正法見直しに向けて、今後も大麻政策の動向に注視していきたい。
あたらしい大麻入門
長吉さんは、冒頭でこの度の法改正の概要を説明した。続いて、5年後に迎える、改正法の運用見直し(改正法附則2条)を見据えて、「不完全な法律は変えていかないといけない」と述べた。特に、施用(使用)罪や「麻薬」としての大麻規制の運用、CBD製品におけるTHC残留限度値、がポイントになるのではないか、という。
弁護士が描く今後の大麻政策

大藪大麻裁判の弁護人である石塚伸一弁護士は、「法改正による大麻規制の今後」と題して、大麻使用罪の法定刑は最高懲役7年までで、その行為と刑罰の均衡がとれていない、と主張した。また、THCを高濃度に含むものだけを規制できるような基準を設け、それを使用した際には賭博と同程度の罰金または科料でいいのでは、と新しい大麻政策のビジョンを語った。
大藪大麻裁判の被告人で陶芸家の大藪龍二郎さんと丸井英弘弁護士は、「大藪大麻裁判報告」を行った。丸井弁護士は現状の問題点を、市民の安全を守るのが警察なのに、大麻事件ではそれを脅かしている、と指摘した。今後の大麻政策については、わが国の大麻規制を歴史的観点から振り返り、いったん今ある法律を全廃止して作り直すべきだという。
事件当事者からみた大麻政策のいま
裁判の当事者である大藪さんは、控訴中の自身の事件について、「23日の勾留でいろいろなものを失った」、判決は「人の一生を決める」と、刑事手続がもたらす結果の重さを訴えた。
イベントの最後に、俳優・キャンピングロッジオーナーの高樹沙耶さんは、自身の近著『大麻と私』と同じ題で、以下のように語った。大麻事件で逮捕されたとき(2016年)のことを、人格を否定するようなことをたくさん言われた、と振り返りつつも、現在は社会の大麻に対する態度が変わってきているのを感じるという。
大麻を活用していくために必要なこと
GREEN ZONE JAPAN代表で医師の正高佑志さんは、「医療大麻の未来」と題してトークを行った。薬物ごとに異なる規制をかけられる制度の導入を検討すべきだとした。また、カンナビノイド製品の現状を分析し、これらの製品を扱う業界内での自主規制により、無事故を目指していくことの必要性を指摘した。
続いて、Asabis代表の中澤亮太さんは、「CBD市場の動向」を、THC残留限度値が明確に示されたことで、大手企業の参入や、限度値をクリアしやすい形態の製品が増えるのではないか、と予測した。一方で、限度値そのものに対しては、「合理的な数値ではない」と疑問を呈した。
見直しの余地は大いにあり
メイヂ食品代表の高野泰年さんは、「大麻問題 これだけは言わせてほしい!」として、麻薬取締法違反(営利目的譲渡)で逮捕されたあるカンナビノイド製品の販売業者が、釈放後に自ら命を絶った件を取り上げた。逮捕による身体拘束や社会的制裁といった、刑事事件の当事者をとりまく厳しい状況は、ときに人の命を奪いかねない、と怒りをあらわにした。
逮捕と自殺の因果関係は必ずしも明らかではない。だが、刑事手続が、当事者の人生を大きく変えてしまうものであることは、紛れもない事実といえるだろう。この点もふまえて、大麻の取締りを続けていくべきか、今一度、再考すべきであるように思われる。
なお、大麻使用処罰の是非については、石塚伸一ほか編著『大麻使用は犯罪か?——大麻政策とダイバーシティ』(現代人文社、2022年)に詳しい。
(お)
※なお、大藪大麻裁判は、このセミナー後の3月4日、東京高等裁判所にて控訴棄却の判決が言い渡された。そして、審理の舞台は最高裁判所に移ることとなった。
(2025年03月18日公開)