10月4日、日本弁護士連合会は、〈法廷内における被疑者・被告人の手錠・腰縄の不使用を求める〉決議を採択


日本弁護士連合会第66回人権擁護大会で決議案の趣旨説明をする田中俊・第2分科会実行委員会委員長(2024年10月4日、名古屋国際会議場。撮影/刑事弁護オアシス編集部)

 10月4日、日本弁護士連合会(会長:渕上玲子)は、名古屋市で開かれた第66回人権擁護大会で、「刑事法廷内における入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める決議」を全会一致で採択した。

 2014年に大阪で、ある被告人が「自らの自尊心や無罪推定の権利等の確保を理由として手錠・腰縄姿で入退廷することを拒否し、担当弁護人も入廷前に手錠・腰縄を解錠し、法廷から退出した後に施錠する措置を施すよう申入れ」を行った。しかし、裁判所がこれを認めなかったため弁護人も出廷を拒否した。このため、裁判所は弁護人に対して過料3万円の決定を出した。

 この事件が発端となって、大阪弁護士会は、2017年4月、「法廷内手錠腰縄問題に関するプロジェクトチーム」を発足させた。2017年12月には近畿弁護士連合会は「刑事法廷内における入退廷時に被告に手錠・腰縄を使用しないことを求める決議」を行った。さらに、日弁連は手錠・腰縄問題プロジェクトチームを立ち上げ、2019年10月15日付「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書」を公表した(詳しくは、山下潔著『手錠腰縄による被疑者・被告人の拘束──人権保障の視点から考える』〔現代人文社、2024年〕第15章参照)。

 2019年5月27日、大阪地裁(大須賀寛之裁判長)判決で、刑事法廷内における入退廷時の手錠・腰縄使用の人権侵害性を示された。しかし、同判決後、弁護人が手錠・腰縄を使用しないよう裁判所に申し入れると、パーティションで被告人等を隠して手錠・腰縄の解錠・施錠を行う運用の改善が一部で見られたが、現在でも申入れを行っても何らの措置も採られないことが常態化し、この問題が放置されている。

 しかも、2023年4月19日広島地方裁判所は、勾留されている被告人等が手錠・腰縄を付けられた状態のまま公判廷で入退廷させられたことの違憲性・違法性を求めて提起された国家賠償請求訴訟で、「本件措置が原告の逃走防止との関係で有効であることから、本件措置が法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるとはいえない」として、原告の請求を棄却した。それに対する上告審で、最高裁第二小法廷は2024年5月24日、上告棄却・上告不受理を決定し、下級審の判断を追認している。

 このような現状において、日本弁護士連合会は、人権擁護大会の前日に行われた第2分科会シンポジウム「これでいいの? 法定内の手錠・腰縄──憲法・国際人権法から考える」で、研究者や元裁判官などをパネリストに招きこの問題を深め、この決議に至った。決議は、法廷内の被疑者・被告人に対する手錠・腰縄の使用が、弁護士にとって「日常」の光景になってしまっていたことについて反省と自戒を込めたものでもある。

 決議は、「勾留されている被疑者・被告人(以下『被告人等』という)が、手錠・腰縄をされた姿で刑事法廷内に入ってくる。その姿を目にしたら、あなたはどう思うだろうか。もし、あなた自身が被告人等であったら、どう感じるだろう」と問題提起することで始まる。

 そして、「刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は、明らかに憲法及び国際人権法等に違反するものである。

 すなわち、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は、憲法第13条が保障する個人の尊厳・人格権を侵害するのみならず、品位を傷つける取扱い等を禁止する自由権規約第7条、第10条第1項及び拷問等禁止条約第16条第1項に違反しているとともに、憲法第31条及び自由権規約第10条第2項⒜、第14条第2項が定める無罪推定の権利を侵害している。

 また、被告人等の防御権、対等当事者として裁判に臨む権利及び公平・公正な裁判を受ける権利をも侵害しているものであるから、憲法第31条以下、第37条及び自由権規約第14条第1項にも違反している。さらには、国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)にも違反している。

 そもそも、裁判官は、良心に従って独立してその職権を行い、憲法及び法律のみに拘束され(憲法第76条第3項)、憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を負っている。したがって、上記で列挙した被告人等の基本的人権が侵害されないよう、適切に法廷警察権を行使しなければならない。しかしながら、裁判官は、漫然と一律に入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用して、被告人等の基本的人権を侵害している」と、手錠・腰縄による人身拘束の法的問題点を指摘する。

 決議は最後で、裁判官および国に対し、上記の被告人等の基本的人権が最大限保障され、被告人等が危険な犯罪者であることを示唆するような方法で入退廷させられることがないよう、以下の3点の措置を早急に講じることを求めている。

1 裁判官は、被告人等の基本的人権を尊重し、法廷警察権を適切に行使して、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することを今すぐにやめ、刑事訴訟法第287条第1項ただし書が規定する事由があり、必要やむを得ない場合以外は、手錠・腰縄を使用しないこと。

2 国は、刑事訴訟法第287条第1項本文が規定する刑事法廷内における身体不拘束原則を入退廷時の被告人等に対しても確実に保障するため、同法に第287条の2を新たに設けて、入退廷時の被告人等に対しても、身体不拘束原則が及ぶことを明記すること。

3 国及び裁判所は、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備(例えば、手錠・腰縄の着脱が可能な待機室あるいはスペース等の設置)や暴行及び逃亡防止のための物的・人的整備を講じること。

 前述したシンポジウムでは、実行委員会委員長の田中俊弁護士が、手錠・腰縄問題を解決するために、つぎの3点の行動提起を行った。①弁護士は法廷で手錠・腰縄を使用しないよう裁判所に申し入れること、②国会に対して、解決のために立法するよう働きかけること、③行政に対して、手錠・腰縄の使用を解消するために、人的・物的整備をするよう求めること。

 そして、弁護士、弁護士会がすぐに始められる具体策として、つぎの2点を強調している。①各単位会で、法廷で手錠・腰縄問題に関するプロジェクトチームの設置、手錠・腰縄を使用しないよう裁判所に申し入れるマニュアルの整備、申し入れる弁護士を支える体制を作ること、そして②法廷内での手錠・腰縄使用を直ちにやめるよう決議を上げること、をあげている。

(2024年10月08日公開)


こちらの記事もおすすめ