このほど、弁護士の有志によって「取調べ拒否権を実現する会」(RAIS Right Against Interrogation Society)が発足した。6月11日、日本外国特派員協会で、高野隆弁護士(同代表)、趙誠峰弁護士(副代表)、および野村真莉子弁護士(会員)が記者会見し、その設立を公表した。
日本国憲法(38条1項)で被疑者に黙秘権があることが明記され、刑事訴訟法(198条1項)で具体化されている。しかし、実際の取調べではそれが実現されていない。大きく立ちはだかっているのが「取調べ受忍義務」という実務の悪しき解釈である。
被疑者がいくら黙秘する意思を示しても、警察や検察の取調べがやむことはない。取調室では、23日という身体拘束期間一杯、被疑者は「黙秘するといつまでも家族に会えないぞ」「保釈も認められない」「弁護士の言うことを聞いていると不利な結果になるぞ」などと言われ続ける。ときには人格を誹謗されたりすることもある。そうした取調べによって、被疑者は根負けして、捜査側のストーリーにしたがった「自白」をしてしまうことさえある。これは、冤罪の温床の一つであるといわれている。
会見では、被疑者によって黙秘権が行使された場合、実際の取調べがどうなるか。江口大和さんの「日本の『黙秘権』を問う訴訟」の法廷に提出された取調べの録音・録画が映し出された。黙秘権を行使した江口さんに対して、22日間、50時間にも及ぶ取調べの一端が紹介された。
このような取調べ実態から、取調べの録音・録画だけでは、黙秘権を保障することはできず、取調べを拒否する権利を確立することが必須であると同会では分析している。
こうした日本の刑事司法の現状を打破しようとするのが、RAIS設立の目的である。
設立宣言では、黙秘権の意義、制定過程、取調べ受忍義務などを解説した後、「取調べ受忍義務は、憲法に違反し、法律に違反し、そして公正な刑事裁判の実現を阻害する。取調受忍義務の廃止すなわち取調べ拒否権の確立によって初めて憲法の保障は実現するのである。そのためにわれわれは国民的な運動を展開することにした。憲法の保障を確立し人質司法を解消するために、われわれは以下の活動を展開することをここに宣言する」としている。
同会の宣言の中で、当面の活動の目標をつぎの3点としている。
①取調べ拒否権──黙秘する意思を何らかの方法で示した被疑者に対して捜査官が取調べを継続することを許さない──を保障する法律を3年以内に制定する。
②在宅事件であれ身柄事件であれ、取調べを拒否することを中心とする弁護活動を積極的に展開し、その実務をスタンダードな弁護実務として定着させる。
③被疑者の取調べ拒否権こそが憲法の保障するものであり、その権利が実現されることでこの国の刑事司法が公正なものとして国際社会から信頼されるものとなることをあらゆるメディアを通じて全国民に向けて広報する。
同会は、国会で取調べ拒否権──黙秘する意思を何らかの方法で示した被疑者に対して捜査官が取調べを継続することを許さない──を保障する法律が作られるまで待つことはできないと考え、現実の依頼人の憲法上の権利を確保するために今すぐにできることがあると、全国の弁護士に取調べ拒否権の実現のための具体的な弁護活動をすぐはじめることを呼びかけている。
このために、同会のホームページには、「取調べ拒否権実践マニュアル」が収録されている。
同会は、マニュアルは試行錯誤を繰り返しながら、より良い実務を作りあげるための一助として活用していただき、さらなる知恵と成果と思考のフィードバックを求めている。
(2024年06月21日公開)