大藪大麻裁判(判決公判)/有罪判決、捜査の違法性や大麻の有害性など弁護側の主張は一切無視


前橋地方裁判所(2024年6月4日)

求刑どおり懲役6月、執行猶予3年

 6月4日(火)、前橋地方裁判所刑事第1部(橋本健裁判長)で、大麻所持罪の無罪を主張して争っている大藪大麻裁判の判決が言い渡された。2021年10月26日の第1回公判から約2年7か月かかった。

 午後1時半、橋本裁判長は、大藪龍二郎さんを被告人席に着席させて、判決を読み上げた。検察の求刑どおりの懲役6月の有罪、「大麻草2袋」の没収であった。但し刑の執行猶予が3年付いた。

 事件について簡単にふれる。2021年8月8日、やきもの作家の大藪さんは陶芸イベントの帰り道、運転に支障をきたす程の眠気を感じたため、群馬県内の国道の路側帯に車を停めて仮眠していた。そこに近隣住民の通報を受けてかけつけた警察官が大藪さんに対して道路交通法違反の嫌疑で職務質問をし、免許証の提示を求めた。大藪さんが免許証を提示したところ、警察官は群馬県警察本部に総合照会をかけた。犯歴照会による捜査・処分記録などから、嫌疑を薬物事犯に切り替えた。警察官は車内の検査で「植物片」が入った黒色ポーチを発見し、その簡易鑑定を実施。その結果、大麻成分が検出されたと判断し、その場で大藪さんを大麻所持の嫌疑で現行犯逮捕した。大藪さんは23日間の勾留の末、同年8月27日に、大麻取締法24条の2第1項の所持罪で起訴された(詳しくは、長吉秀夫氏の「大藪大麻裁判 第1回公判リポート」参照)。

 弁護人は、大藪さんへの職務質問、所持品検査、現行犯逮捕の一連の捜査過程に違法があるとして証拠排除を求めていた。判決理由は最初に、この点について判決文の大半を使って判断した。弁護人は、大麻取締法の嫌疑に切り替えた理由の一つに大藪さんの服装が「ラテン系」であったことで、レイシャル・プロファイリングの疑いがあると強く違法性を主張していた。判決理由では、その事実には言及したが、総合的に判断して違法はないとして、証拠排除を認めなかった。

 このあとの判決理由は、「植物片」の鑑定について触れた。弁護人が鑑定経過や鑑定データについて、その基礎となる科学的原理や知見に根本的問題があり「科学的根拠」に乏しく、「検査方法に重大な過誤」が認められるとして「非科学的鑑定」だと批判していた。判決理由は、鑑定結果は群馬県警科学捜査研究所の技術職員の「専門的な知見に基づいた合理的なもの」として、弁護人の主張に関してなんら具体的に検討しないまま信用できるとした。

 そして判決は、前回公判の最終意見陳述で大藪さんと弁護人が主張した無罪にすべき理由——自己使用のための乾燥大麻草の少量所持は、所持罪における「所持」とはいえない、自己使用目的での同所持には可罰的違法性がない、パニック障害の自己治療のための使用目的による同所持には違法性がないこと——等については一切認めていない。

 さらに、弁護人が再三請求していた検察による大麻の「有害性」立証がないことについては、「有害性」は最高裁の判断(1985〔昭和60〕年9月10日決定、同年9月27日決定など)で明らかであるとして、何ら判断を示さなかった。

 当然ながら、弁護人が主張した大麻取締法の違憲性については、大麻の有害性を前提として、「有害性を有する大麻取締法上の大麻につき、同法において、国民の保健衛生上の危害防止のため、その所持等を規制し、その取扱者を免許制にするなどしていることは合理的かつ必要な措置といえる」という従来どおりの理由を述べている。

 このように判決理由にはなんら目新しい点はなく、従来の大麻裁判を踏襲しただけのものであった。前回の最終意見陳述後の報告集会では、ひょっとしたら「無罪」もありうるのではないかという一縷の望みもあったが、見事に裏切られた。

大麻裁判の非科学性が明らかに

 判決後、裁判所近くのぐんま男女共同参画センター会議室で報告集会開が開かれた。多くのメディア記者や支援者が参加した。

判決の内容について説明する石塚伸一弁護士(2024年6月4日、ぐんま男女共同参画センター会議室)

 冒頭、弁護人の石塚伸一弁護士は、「判決理由では、私たちが追及した群馬県警の科捜研が行った大麻鑑定の非科学性についてはまったく触れていない。このことは、現在の大麻裁判において科学を無視している現状を如実に表している」と批判した。

 大藪さんは、丸井英弘弁護士とともに判決の検討のため遅れて報告集会に望んだ。

 大藪さんは、家族とも相談して最終的に控訴するかどうか決めるとしたが、控訴の意向を強く示唆して、つぎのように語った。

 「とても残念です。判決文を見ましたが、とても納得できる内容ではありません。これが判決文かという気持ちでいっぱいです。私が何をしたというのでしょうか。23日間も勾留され、判決ではさらに6か月の懲役というが、私は社会に対して害を及ぼすどんなことをしたのでしょうか。その点ついて何も理由が示されていません。このことを控訴してもう一度しっかり問いただしたい」。

 その後、大藪さんは、控訴をすることを正式に決めた。

判決に対して憤りを隠せない大藪龍二郎さん(向かって左端)と主任弁護人の丸井英弘(中央)弁護士、そして支援者の長吉秀夫さん(右端)(2024年6月4日、ぐんま男女共同参画センター会議室)

 丸井英弘弁護士は、「大麻裁判に限らず、違憲を主張すると、日本の裁判所は機能麻痺に陥ることは明らかです。また、証拠に基づいて判断をしていない。大麻裁判について根本から見つめ直すべき時期にきています。これから全力を尽くしてこの問題に取り組みたい」と力強く結んだ。

 支援者の長吉秀夫さんは、つぎのように、今後の大藪裁判の支援について語った。

 「まずは、ご協力いただいたすべてのみなさんに御礼を申し上げます。この裁判でも、重要なポイントについての議論が全くできなかったのは大変残念です。1985年の最高裁判決以降、すべての大麻裁判で司法が機能不全をおこしています。しかし、昨年の大麻取締法の法改正によって、大麻は医療として使えるようになります。ということは、国は有害性についても科学的根拠を示す必要があります。控訴することになれば、この点についてはっきりさせたいと思います。また、今回の裁判で棄却された証拠はすべてオープンにして、今後のすべての裁判で使用できるようにしていきたいと考えています。すべての問題が解決するまで、しっかりと取り組んでいきたいです」。

 前述したように正式に控訴したので、争いの舞台は東京高等裁判所に移ることになる。

 なお、3月29日に、弁護人は最終意見陳述を行ったが、その要旨を弁護人から提供を受けたので、編集部の責任で誤字等を修正して全文を公開する。

(2024年06月19日公開)


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