〈第16回・季刊刑事弁護新人賞〉発表!

福岡県弁護士会の隈慧史さんが最優秀賞を受賞


ふくろうのペーパーウエイト
写真は、各受賞者に副賞として贈られる、石で造った〈ふくろう〉のペーパーウエイト。

 第16回季刊刑事弁護新人賞の選考委員会が、2018年11月4日、現代人文社で行われた。今回は全国から14件の応募があったが、厳正な審査の結果、以下の4名が選ばれた。

 最優秀賞:隈慧史(福岡県弁護士会・66期)

 優秀賞 :青山玄(東京弁護士会・66期)

髙見智恵子(東京弁護士会・70期)

 特別賞 :李世燦(東京弁護士会・68期)

 

 授賞式は、2月23日(土)に、都内で行われる。また、受賞者のレポートは、加筆修正したうえで、季刊刑事弁護97号(2019年1月発行)9頁以下に掲載される。

 最優秀賞の事案(窃盗被告事件)は、被告人の訴訟能力を争い、公訴棄却を求めたもので、 非常に重要でありながら、実践報告例がわずかしかない分野で尽力した弁護活動が高く評価された。模擬冒頭手続で被告人の理解力を確認するといった工夫は、若手弁護人にとどまらず、この分野に取り組む弁護人にとって、非常に参考になる内容である。

 優秀賞の青山さんの事案(暴行被告事件)は、捜査段階での身体拘束の解放に向けた活動から一審での無念の有罪判決、控訴審での逆転無罪に至るまでの活動である。防犯カメラ映像と110番通報の音声を徹底的に検討し、証人の証言を弾劾するケースセオリーを緻密に構築し、逆転無罪まで粘り強く闘ったもので、その成果が評価された。

 同じく優秀賞の髙見さんの事案(窃盗被告事件)は、再度の執行猶予判決を付された事件で、弁護活動とともに、弁護人としての悩みが選考委員の強い共感を生んだ。被告人や家族の気持ちにそれぞれどう向き合うのかといった点のみならず、捜査段階での準抗告認容により国選弁護人の地位を失ってしまう点、判決後の更生支援にどこまで関わるかという点など、制度的な課題も見えてくる弁護活動であった。

 特別賞の李世燦さんの事案(強制わいせつ被疑事件)では、現地の沖縄まで足を運ぶなど関係者への幅広い事情聴取や、担当刑事からの情報収集など、非常に熱心で積極的な弁護活動の結果、不起訴を獲得した。

 選考委員会は、「受賞を逃してしまった報告の中にも非常に素晴らしい活動が多々ありました。今後の刑事弁護レポートなどで読者の方の目にも触れる機会があるかと思います。全体を通じた感想としては、否認事件における公判前整理手続の利用については、もっと積極的でもよいのではないかという意見も出ました。万全の証拠開示を受けるためにも、遠慮は無用です。刑事弁護の今後の発展のためにも、若手弁護人の一層の活躍を期待します」と締め括った。

 今回の選考委員は次のとおりである。金杉美和(弁護士・京都弁護士会)、川上博之(弁護士・大阪弁護士会)、本庄 武(一橋大学教授)、緑大輔(一橋大学准教授)、村井宏彰(弁護士・東京弁護士会)、和田恵(弁護士・東京弁護士会)、児玉晃一(弁護士・東京弁護士会)、北井大輔(季刊刑事弁護編集長)。

 なお、応募資格と選考基準は以下のとおりです。

◎応募資格:その年の9月末で、弁護士登録から5年以内の弁護士。

◎賞選考委員会:毎年11月。

◎評価の基準:①事件の全体像を正確に把握している。②弁護人の主張するケース・セオリー(あるいはアナザー・ストーリー)が明確に立てられ、そのケース・セオリーに説得力がある。③捜査・公判段階において、刑事訴訟法の知識を利用した有効な弁護活動がなされている。④捜査弁護・公判弁護を通じ、弁護人の「努力」の跡が見られ、「情熱」を感じることができる。⑤独創性や工夫の跡が見られる。⑥一定の成果が見られる。⑦弁護活動が感銘を与え、新人弁護士をしてよい弁護への動機づけとなるようなものである。

 

  • 季刊刑事弁護新人賞の沿革——————————————-

 1997年4月、伯母(うば)治之・児玉晃一両弁護士が、詐欺被疑事件において接見妨害を行った検察官と違法な接見指定を看過して準抗告を棄却した裁判官の責任を追及すべく国家賠償訴訟を、東京地方裁判所に提起した(詳しくは、児玉氏のレポート・季刊刑事弁護11105頁参照)。この訴訟が新人賞創設のはじまりである。

 この訴訟で、20001225日、東京地方裁判所は国に対して、伯母弁護士への慰謝料として10万円の支払いを命じたが、児玉弁護士の請求を棄却した。続く控訴審では2002年3月27日、伯母弁護士への慰謝料を増額し25万円の支払いを国に対して命じたが、児玉弁護士の請求はまたも棄却された。これに対して、両弁護士は、児玉弁護士の請求は棄却されたものの判決内容を考慮して、上告せず、判決が確定することになった。

 その後、弁護団と両弁護士は、賠償金25万と全国の弁護士からのカンパの残余金を、全国の新人弁護士の励みにして欲しいという願いから、新人賞の賞金として現代人文社に託した。これを基金にして、2003年に「季刊刑事弁護新人賞」が創設された。

 毎年、刑事弁護活動レポートを募集し(要綱は、季刊刑事弁護誌上で発表)、11月に賞選考委員会を開き、最優秀賞1名(賞金10万円)、優秀賞2名(賞金各5万円)を決定し(特別賞1名〔賞金3万円〕を選定する場合がある)、レポートは、翌年の季刊刑事弁護誌上に掲載される。

 なお、第10回(2012年)から㈱TKCが協賛している。

(2018年12月28日公開)


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