大麻使用罪新設に慎重な審議を求めて、刑事法研究者が声明


 今、「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案」が国会で審議されている。法案には、①大麻の使用罪の創設、②医療用大麻の一部合法化および③大麻栽培免許制度の見直しなどが盛り込まれている。

 この法案は、2023年10月20日に閣議決定、第212回国会に提出され、衆議院で可決後、参議院において審議中である。

 11月28日、石塚伸一(龍谷大学名誉教授)、園田寿(甲南大学名誉教)、 松宮孝明 (立命館大学特任教授兼名誉教授)など刑事法研究者が、 「大麻使用罪(施用罪)の新設に慎重な審議を求める刑事法学研究者の声明」を発表した。

 声明は、拙速な審議は、民主主義の根幹を揺るがすものであり、将来の法執行に禍根を残すものと深く憂慮し、「良識の府」たる参議院においては、広く国民の意見を聞き、刑事法学の専門家や実務家の意見を聴取し、以下の点について慎重に審議することを求めている。

【要望1】参議院においては、厚生労働委員会だけでなく、法務委員会においても法案を検討し、慎重かつ真摯に審議すること
【要望2】増加しているとされる大麻関連犯罪の取締まり状況を調査し、捜査訴追機関の人権の侵害が発生してないかを精査すること
【要望3】審議に際しては、薬物政策に関する国際的潮流を踏まえ、エビデンス(科学的証拠)に基づく議論により、犯罪化・重罰化の可否を決定すること
【要望4】 薬物関連犯罪の規制を強化するのであれば、捜査訴追機関が「国民の権利を不当に侵害しないこと」および「法の本来の目的を逸脱して権限を濫用しないこと」を確認する権限濫用予防条項を設けること

 法案では、大麻の使用罪を新たに創設し、懲役7年という重い刑罰を定めようとしている。大麻などの薬物への対応については、国連では10年以上前から懲罰的アプローチから人権に基づく公衆衛生アプローチに転換していくべきことを勧告しており、世界の多くの国も、大麻に対するアプローチを変更している。

 今年6月にも、国連人権高等弁務官事務所は、国際社会に対し、個人のための薬物使用と所持は緊急に非犯罪化されるべきであるという声明を発表した。声明では、個人的な薬物使用を犯罪とすることで、医療サービス等につながることを困難にし、その他の人権侵害をもたらすという、犯罪化することへの悪影響についても言及している。日本では、大麻は違法薬物だ、危険な物質だというイメージが根強く、犯罪として処罰するアプローチ以外の対処法が取られにくく、公衆衛生の視点は語られにくい。日本政府は、世界の潮流に反した政策をとることの合理的な理由を示していない。

 他にも、この法案には多くの疑問があると言われている。例えば、インターネットの世の中で、犯罪化・重罰化によって若い人たちに「犯罪者」「薬物中毒者」のスティグマ(烙印)を押し、デジタル・タトゥーによって差別や偏見を拡大することになるのではないか。海外の医療と薬品に頼ることは多国籍薬物企業の支配に繋がるのではないか。生物多様性の保護や循環社会の実現のために国内の大麻産業を育成しなくてよいのかなどである。

 このように多くの疑問の生じる法改正について、市民に対して大麻に関する情報が示されることはなく、議論をする土台すらできているとは言えない。国会議員も同様で、その関心はきわめて薄いままである。

 この事態に対し、刑事法学者と市民がそれぞれ声明を出している。私たちも、自分ごととして受け止め、注目したい。

 なお、任意団体クリアライトは、11月27日、【声明】大麻取締法改正について
を国会に提出している。

(2023年11月30日公開)


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