「参加型裁判演劇・秋公演『極刑』」/迫真の演技と自分の一票が結果に結びつく感覚


「参加型裁判演劇・秋公演『極刑』」の一場面(2023年9月15日、東京ウィメンズプラザ)

 2023年9月15日(金)〜16日(土)、企画・制作:(一社)リーガルパーク主催の「参加型裁判演劇・秋公演『極刑』」が、都内の東京ウィメンズプラザで上演された(刑事司法未来〔CJF〕、株式会社TKC、刑事弁護OASISなど後援)。総合演出は、今井秀智 である。

 会場は、舞台上にスクリーンと証言台等があり、舞台下客席部分に、裁判官3名と、当日の参加者からくじ引きで選ばれた6名の裁判員が並ぶ。その9名の後ろに観客席があり、裁判官、裁判員と同じ目線で舞台を見ることになる。

 扱う事件は、都内大田区で起こった強盗殺人事件。被告人の佐瀬研一は、借金に追われ、かつて勤務していたホリカワ機械を訪れて経営者の堀川秀男に借金を申し込んだものの、拒絶された。被告人は、事務所の机の中にはいつも数万円の現金が置かれていることを思い出し、それを盗もうと決意した。深夜、ホリカワ機械の事務所に侵入し、金を探したが、秀男に見つけられた。被告人は、持っていたナイフで秀男を刺し殺し、さらに、物音に気付いて事務所にやってきた秀男の妻・良子にも見つけられ、良子まで刺し殺した。この後、被告人は、引き出しにあった12万円入りの封筒を奪って逃走した。

 15日は80名程度の参加者であった。

 公演は、上記の「ある強盗殺人事件」について裁判員の選任から始まり、辞退者が出ると、6名揃うまでくじ引きが行われた。その後、舞台上のスクリーンに事件を生々しく報じるニュース番組と、事件の半年後1人の男性が警察に出頭したことを報じるニュース番組が放送され、公判が開始した。

 公判開始後は、人定質問、起訴状朗読、冒頭陳述と、実際の公判と同じように進められていく。検察官と弁護人が言葉を述べる場面では、スクリーンに写真が映し出され、長いセリフを聞くだけではなく、視覚的にも事件を理解できるよう工夫がされていた。

 また、今回の公演では、参加者がチャットで意見交換を行うことや、被告人等に聞いてほしいことを投稿することができた。実際に、裁判長がチャット上の質問を被告人や証人に行う場面もあった。どの回も活発な意見交換が行われていた。

 遺族と被告人の証人尋問、被告人質問を経て、論告求刑・弁論の後、裁判官と裁判員は別室での評議に移った。この時、裁判官の1人が会場に残り、この会場での多数決の結果を自分の1票とすることを説明。チャットのコメントを見ながらコメントをし、観客が2つの論点について検討する時間を持った。10分後、観客の投票が行われた。

 観客の結果はそれぞれ、次の通りで、1点目の1人目の被害者に対する殺意については異なる結果が出た。この間もチャット上では疑問や意見が飛び交っていた。

 裁判官がこの結果を評議の場に持ち帰り、裁判官3名と裁判員6名で結論を出した後、判決の言い渡しが行われた。

 閉廷後、会場には次のようなメッセージが流れた。

*   *   *

 今日、裁判官も裁判員も、観客も、同じものを見て、同じことを聞いた。見え方も感じ方も異なっていた。その違いが、判決の違いに結びつく可能性もある。つまり、人が変われば判決も変わる。そして、裁判の結果は強制的に実現されることになる。そういった裁判に市民が無関心であってはいけない。

*   *   *

 3時間を超える長時間の公演であったが、会場の雰囲気は最後まで緊張感が保たれていると感じた。役者の迫真の演技と、自分の一票が結果に結びつくという感覚が公演を観ている観客ではなく、まさに“参加”していると感じさせるものとなっていた。

(み)

(2023年09月30日公開)


こちらの記事もおすすめ