7月8日、シンポジウム「ノーモアえん罪!! かしかとたちあいの未来」開催。村木厚子さんは、制度改革には、国際的な圧力、個別事案の裁判での勝利、国民からの声の必要を訴える


シンポジウム「ノーモアえん罪!! かしかとたちあいの未来」で語る岩本計介アナウンサー(右)と森直也弁護士(2023年7月8日、大阪弁護士会)

 7月8日(土)、大阪弁護士会館において、「ノーモアえん罪!! かしかとたちあいの未来」と題して大阪弁護士会主催(日本弁護士連合会共催)のシンポジウムが行われた。会場で120名、オンラインで100名が参加した。

 第1部「緊急報告」では、まず、袴田事件弁護団からの緊急報告として、間光洋弁護士から、50年を超える袴田事件の経緯と、今後の再審に向けての現状報告がなされた。また、袴田巌さんの姉・ひで子さんが登壇され、岩本計介アナウンサー(朝日放送)のインタビューに50年を経て今なお続くえん罪被害者家族としての体験や思いを述べられた。

 第2部「事件報告」では、現在も続く違法不当な取調べとえん罪被害の問題について、実際に事件に巻き込まれた2名のビデオメッセージが放映された。

 まず、プレサンス・コーポレーションの創業社長だった山岸忍さんのビデオメッセージでは、検察官が有罪立証の証拠となるような供述調書を得るために、長期の身柄拘束状態を利用して、狡猾に調書へのサインを求めていく様子が語られた。これは「人質司法」と言われているもので、日本の刑事司法の病理の一つである。

 つづいて、窃盗を疑われた被疑者に対する違法な取調べについて、賠償請求が認められた三重事件(津地判令和4年3月10日(令和2年(ワ)第222号)LEXDB25592232)の原告のビデオメッセージでは、被疑者とされて取調官による違法な取調べを受けた際の録音音声が流され、取調べの実態の一端を知る機会となった。

 さらに、取調べへの弁護人立会いをめぐる世界の現状として、石田倫識・明治大学教授からはイギリスにおける状況について、柳光玉弁護士(ソウル弁護士会)からは韓国の状況についてそれぞれ報告がなされた。いずれの国でも弁護人の立会いは制度として認められているとのことであった。

 最後のパネルディスカッション「『かしかとたちあい』未来に向けて」では、取調べ可視化の実現に向けて具体策が議論された。パネリストは、郵政不正事件冤罪被害者の村木厚子さん、小坂井久弁護士、川崎拓也弁護士、石田教授で、コーディネータを森直也弁護士、岩本アナウンサーが務めた。

 取調べの可視化については、村木さんが巻き込まれた郵便不正事件をきっかけに刑事訴訟法が改正されて一部実現したが、全事件全過程の可視化には至っていない。現在、法務省で「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」が行われているが、これについて小坂井弁護士は、協議会の弁護士委員から提起された取調べ事例について当局側に検証する気がなく、全体として動きが鈍いと批判した。

 協議会に関心を持って見ていたという村木さんは、マスコミも入らないし議事録があがるのも遅いと、その進展が遅いことに苛立ちをみせていた。また、ふだんは遠いところにある刑事司法だけれど、いつ自分が当事者になるかわからない。だからこそ、こっそりと協議会が進められているのが不安で、みんなでどうしたらよいかを国民が一緒に議論できる状況に早く持って行きたいと語った。

 また、取調べへの弁護人立会いについて、村木さんは弁護士から刑事手続のルールを教えてもらうという重要な意味があると指摘。実際に取調べを受けた身として、「取調べは、ルールを熟知したプロの検事とアマチュアの自分がいきなりリングに上がらされてセコンドもレフェリーもいない中で試合しろと言われるようなものだ」と、その実態を語った。だからこそ、ちゃんと弁護士からルールを教えてもらう必要があり、それが弁護人立会いの意味だと指摘された。

 この取調べへの弁護人立会いについて、日本の法律では弁護士の立会いを権利として認める規定はないが、捜査機関内部の規定(犯罪捜査規範)では立会いを前提としたものがある。また、日本国憲法に基づく刑訴法の制定過程においては、違法・不当な取調べは自白法則で対応できるということで規定化が見送られた経緯があるので、憲法上も立会いが想定されていたといえるのではないかという指摘が石田教授からなされた。さらに、川崎弁護士は、警察庁は弁護人立会いを原則認めない通達を出しているため、弁護人側から求めてもまずほとんど立ち会わせてもらえないという現状を報告した。

 石田教授は日本が批准している国際自由権規約は立会いを権利として認めていること、川崎弁護士は国連から毎年、日本の刑事手続は「人質司法」であると勧告されていると、国際的に見たときにも問題があることが指摘された。これを受けて、村木さんからは、男女雇用機会均等法制定時を例にとって、制度を変えるには、国際的な圧力と、個別事案での裁判の勝利、最後は国民からの声の三つが必要であると話された。

 今後、「かしかとたちあい」の未来を変えていくためには、村木さんも述べていたように、マスコミや司法関係者で志がある人が訴えて、国民が応援できる状況をどこまで作れるかが課題である。

(2023年07月20日公開)


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