TATA(一般社団法人東京法廷技術アカデミー。代表理事:高野隆)は、2022年9月3日(土)から4日(日)にかけて、「反対尋問ワークショップ2022」を、東京・飯田橋にあるTATA法廷教室(TKC東京本社2階)で開催した。それに参加した上野花穂弁護士(金沢弁護士会)からの報告を掲載する。
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未熟な反対尋問は、無罪の被告人を有罪にしかねない
【TATAの反対尋問ワークショップ2022参加報告】
私は、2022年9月3日(土)から4日(日)にかけて、TATAの反対尋問ワークショップ2022に参加しました。
私がTATAのワークショップに参加するのは、ゴールデンウィークに5日間の日程で開催されたワークショップ基礎編に続いて2回目です。
基礎編に参加した際、意味のある刑事弁護を行うためには、それぞれの手続を何となく行うのではなく、知識と技術に基づいて行う必要性があることを強く感じました。
そこで、今回、その知識と技術をさらに学ぶため、反対尋問のワークショップにも参加することにしました。
今回のワークショップに参加して、私が痛感したことは、
「未熟な反対尋問は、無罪の被告人を有罪にしかねない」
ということです。
ワークショップはおおよそ以下の日程で行われます。
【1日目】
9:30~9:40 オープニング
9:40~11:40 ブレインストーミング
11:50~12:20 講義(反対尋問)
13:20~13:50 実践準備
13:50~14:10 主尋問デモ
14:10~15:40 実演①
15:50~17:20 実演②
【2日目】
9:30~11:30 ディスカッション、ブレインストーミング
11:30~12:00 実演③
13:00~14:30 実演④
14:40~15:40 実演(異議)
15:45~17:15 実演⑤
【主な講師陣】
高野隆、坂根真也、高山巌、趙誠峰、我妻路人、赤木竜太郎、加藤梓、鵜飼裕未
実演が終わるごとに、講師から、アドバイスをもらうことができ、それを踏まえて次の実演に臨むことになります。
冒頭でも書いたように、今回のワークショップでは、「未熟な反対尋問は、無罪の被告人を有罪にしかねない」ということを強く感じました。
反対尋問が終わったときには、事実認定者がこの証人が言っていることは嘘なのではないか、思い違いをしているのではないか、と思っている必要があります。
しかし、自分でいざ実演をしてみて思ったのは、私の反対尋問を聞いても、事実認定者は、証人の証言に疑問を抱かないだろうということでした。
正直に言えば、私は、ワークショップに参加する前には、事実認定者にとって、弁護人の意図が伝わるいい反対尋問か、何をしたいのか分からない反対尋問か、という差があったとしても、その事案である以上、ある程度誰がやっても仕方がない部分はあるのではないか、と考えていました。そして、反対尋問は事実認定者にとって分かりやすいに越したことはないものの、そのことが結果に直結することは必ずしも意識していませんでした。
しかし、私の実演の後で、講師がデモとして行った反対尋問を見て、私の考えが間違っていた、と気が付きました。
講師の反対尋問を見れば、事実認定者は、私もそう思ったように、この証人は、大げさに言っている、嘘をついている、と感じたはずです。
それは、講師の尋問が、反対尋問の技術を駆使し、証言の不自然な点を明確にし、そのような不自然な証言になるのは、嘘をついているからだ、と事実認定者が自然と思うような尋問だったからです。一方で、私の反対尋問では事実認定者が疑問を抱かないのは、この事案である以上仕方がないことではなく、私に反対尋問の技術が足りず、自分が証人の証言について疑っている点があること、そして、その点がいかに不自然な証言であるかを事実認定者に伝えられていない、「未熟な」反対尋問だったからです。
もし、今回題材に使った事案が本当の事件だったとしたら、講師が弁護人だったときには、被告人は無罪になり、私が弁護人だったときには、被告人は有罪になってしまったかもしれない、と感じました。そして、反対尋問の技術もないままに、弁護人席に座ることがとても怖いことだと痛感しました。
ワークショップで学ぶ前と学んだ後での反対尋問は、尋問内容はもちろん、そのための事案の分析方法、尋問メモの作成方法、尋問するときの話し方、立ち方まで大きく変わりました。
ワークショップを受けなければ、今でも、自分の反対尋問が未熟なものであることにすら気が付かずに反対尋問を行っていたかもしれません。
今回参加して手に入れた技術をもっと鍛錬して磨き、法廷で実践していきたいと思っています。
上野花穂(弁護士/金沢弁護士会)
(2022年11月02日公開)