7 起訴前保釈の実現を
大出 制度的枠組みということでは、日本では、起訴前保釈が認められていませんが、当然、起訴前保釈を実現するべきだと思います。その点について何かお考えはありますか。
高野 起訴前保釈というのを禁じる条文は、実はないんです。
大出 ないですね。
高野 刑事訴訟法第207条第1項はよく分からない条文ですね。この分かりづらい日本語を学者が解釈して、「起訴前保釈は、ない」ということになっています。だけど、本当にそうなのか、よくわかりません。コモンロー諸国だったら、逮捕から何時間以内に保釈決定する。それを公開の法廷でやるわけです。そのときに、検察が「保釈は駄目だ」と思えば、ヒアリングをちゃんとやって、「この人を釈放すると、こういう危険性がある」、あるいは「出頭が確保できない」ということを言うわけです。そういうことをオープンにやることが、まず必要だと思います。それは、今でもすぐにできることだと思います。
今の勾留の仕組みの実務だと、「0」か「100」です。勾留を却下するか、10日間勾留するか。その中間はない。勾留日数を3日にするとか、条件付きの釈放みたいなことを勾留裁判官ができるように、何か先鞭をつけられないか。例えば海外だったら、GPSモニタリングを付けることを誓約させて、身柄拘束から解放しています。現行法の中でもできると思います。勾留却下するときに弁護人に身柄引受をさせるとか、パスポートを預からせるとかさせるでしょう。それをちょっと広げればいいのではないでしょうか。
大出 確かに、事実上、裁判所の裁量権限の範囲内でできないわけではないと思いますが、明文のないことには、消極的ですね。勾留質問に対する立会いなども、かつては認めていた裁判所もありましたが、明文がないということで、結局は、消極的な対応になってしまっています。
高野 裁判官が自由にならないといけないと思います。
大出 そうですね。日本では、なかなかそういうことにならないことが問題ですね。
高野 憲法上は最も自由で独立が認められた職業でなければならない。転勤も拒否できるはずなのに。もう組織的にあるいは集団的に締め付けられているとしか思えない。それでも「わたしたちは自由です」って、本気でそう思っているとしたら、絶望的な感じがします。
8 証拠隠滅と弁護士倫理
大出 もう少し弁護側の問題についても考えておきたいと思います。高野さんのブログ(https://blogos.com/article/351811/?p=1)の中で、具体的な刑事弁護に関わっている弁護士たちが、証拠隠滅といった点で、違法行為に手を染めている。そういう人たちがいるのではないか、ということも書かれていました。私も、その点がどこかで影響している可能性があるという気がします。まさに弁護人の倫理の問題とか姿勢の問題にも関わってくると思いますが。
高野 証拠隠滅を防止するために被告人の身柄を拘束するというのは、そもそも目的と手段が見合っていないと思います。私の実感として、証拠隠滅とか、偽証教唆という話は、被告人が身柄を拘束されているかされていないかによって、違いはないと思います。では、どういう場合に偽証教唆が行われるのかといったら、被告人が拘置所の中にいるにもかかわらず、偽証を第三者にさせたりすることです。それをやっているのは誰かといったら、弁護人です。
大出 やるとすれば、ですね。
高野 たとえば、共犯者の弁護人をしていて、利益相反があるのに、別の共犯者の所に面会に行って、「誰々さんが、こういうふうに言っている。その供述に従うように」と示唆する弁護士がいるのは、間違いありません。
それを防ぐために被告人が身柄拘束されなければいけないというのは、実に理不尽なことです。そういうことをする弁護士に対する訴追や弁護士倫理上の処置で対処すべきです。それを防止するために被疑者の勾留を継続するのは、目的と手段が全然一致しないと思います。
大出 筋違いな話ですね。
高野 弁護士でなくても、外にいる人たちが動くことが圧倒的に多いわけです。
そもそも、証拠隠滅行為を防ぐという勾留目的は意味がないのです。証拠の信ぴょう性を確保するのは、検察官の仕事だと考えないといけません。欧米は、そういう考えに立っています。証人を保護するのは政府の仕事だと。証人を守るために被告人の身柄拘束をするというのは非効率だと、私は思います。
大出 論理的にも、無罪推定という原則がある以上、本人が証拠隠滅することを想定すること自体がおかしいわけです。
高野 おかしいですね。法廷への出廷確保がお金で賄える、あるいはお金以外の保証で賄えるのであれば、身柄を解放するべきです。
勾留のもう一つの目的は、コミュニティーの平和を守ることです。コミュニティーの安全に対する脅威となる蓋然性が高く、より制限的でない手段――例えば、GPSモニタリング--でそれを防止できないというときに、はじめて保釈を拒否できるというべきです。
(2019年09月04日公開)