1 連載にあたって
私は、2018年10月15日、犯人隠避教唆の容疑で横浜地検特別刑事部に逮捕され、同罪で起訴後、翌年6月21日まで勾留された。
逮捕後の取調べの冒頭で、容疑を否認する旨と黙秘権を行使する旨を表明したが、取調べは延々と続き、合計21日間・56時間超に及んだ。逮捕から保釈されるまでの身体拘束期間は250日に達したが、その間、接見等禁止決定が付され、家族とは一度も会えなかった。
一審においては、重要な証拠法上の決定を得るなどした(たとえば①横浜地決H31.3.28〔訴訟指揮権に基づく証拠一覧表の交付命令〕、②横浜地決R1.9.2〔公判前整理手続終了後における、訴訟指揮権に基づく証拠開示命令〕、③横浜地決R1.11.7〔職権により証人の証言を排除する決定〕)が、力及ばず敗訴した。控訴審においては、ある重要な証人が採用されたにもかかわらず、証人が尋問期日に2回続けて出頭せず、しかも裁判所が同証人の採用決定を取り消すという経緯をたどった末、敗訴した。上告審においては、控訴審の訴訟手続について証人喚問権の侵害(憲法37条2項違反)等を主張したが、棄却された。これら刑事手続の問題については、別稿を期したいと思っている。
250日間の勾留中、私は毎日メモを記し、その時々の心理状態や心に浮かんだ感慨、朝昼晩の献立、日々の出来事などを記録した。
逮捕・勾留された被疑者・被告人の心理状態がどのように変容していくかについて、手続の進展に応じてリアルタイムで記した記録は少ない。そこで、(上)と(中)において、逮捕・勾留された被疑者・被告人はどのような心理状態に陥るかについて、メモに基づいて時系列で詳細に説明したい。
また、私は、容疑を否認したり黙秘したりするほど身体拘束期間が長引くという人質司法を、身をもって体験した。
具体的には、250日の勾留期間を通じて、人質司法がどのように被疑者・被告人の精神を蝕(むしば)んでゆくかをつぶさに観察する機会を得た。そこで、(下)では、その体験を踏まえ、人質司法のメカニズムを分析したい。
人質司法に巻き込まれることは、決して他人事ではない。本稿は、みなさんが人質司法の実態を理解する一助になることを目指している。
2 逮捕〜勾留10日目まで
(上)と(中)とで、「人質司法に巻き込まれた被疑者・被告人はどのような心理状態に陥るか」について、逮捕・勾留中につけていたメモをもとに、時系列で解説します。
今回は逮捕から起訴されるまでの期間を扱います。接見禁止付きで独房に勾留され、孤立無援の状態で取調べを受けさせられるとき、被疑者はどのような心理状態になるのでしょうか。
【1日目】
2018年10月15日、朝から任意聴取を受けた後、夜まで事務所と自宅の捜索が行われ、夜9時前後に逮捕された。その後は、逮捕に伴う弁解録取が15〜20分ほど行われ、横浜拘置支所(以下「拘置所」)に移送された。
拘置所での最初の手続が終わった後、独房に入れられたのは、午後11時過ぎ。その夜は、興奮して、なかなか寝付けなかった。
【2日目以降】
逮捕翌日(10月16日)の朝は、「これからいったいどうなるのだろう」という不安と、「これから始まる取調べの日々をとにかく頑張り抜かなければ」という思いとがあったが、不安の方が大きかった。
この日、手元にあったメモ紙に、次の言葉を記している(以下、太字は当時記したメモからの抜粋)。
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(2024年03月23日公開)