3 勾留11日〜20日
勾留10日目(10月26日)、裁判所は、所要の捜査を踏まえた被疑者取調べ未了などを理由に勾留延長を決定した。それに対して、黙秘する被疑者(私)に対してこれ以上取調べを継続することは黙秘権の侵害であることなどを主張して準抗告をしたが、棄却された(違法取調べを争っている国賠訴訟で提出された「取調べの録音・録画」をご参照ください)。
すると、勾留12日目(10月28日)の取調べで、検察官は次のような罵詈雑言をぶつけてきた。
・「あなたの方は、……黙秘の決意は変わらないから、これ以上調べをやるのは、自白を強要するのは、黙秘権の侵害だとか、わけのわからないことを(笑い)、主張して。あなたがなんで時間気にしているのかなと思ったら、ああそういうことかと思って。また、着眼点がとろいなと思ったけどもねえ。
・「黙秘権のところは、宮村先生っていうよりあなただよね。あの稚拙な主張。なんだこれって。ほんっとに、些末な点をね。それじゃ無罪取れないですよ? 刑事弁護。まあ、実際取れてないと思うけど、あなたの活動ではね。下手くそなんだよ、やり方がね。全然怖くないもん。うっとうしいだけ。……うっとうしいだけなんですよ。イライラさせる、人をね」
・「かわいそうですよ、宮村先生とかも。宮村先生の評価だって落ちちゃってるんだから。何だこれって。何この準抗告の申立書って。たぶんあなたでしょ? 時間でこんなに取調べ受けてます、これがこれからも続きます、もうしゃべらないので、これ以上の取調べ続けるのは黙秘権侵害です、みたいな。何を言ってるんだ、全然理屈になってねえじゃねえかって。……もう、何をしたいのかが、全然、その本質が見えてないところがねえ、完全に露呈してますよねえ」
ここまで言われると、内心反発しつつも、私と弁護人とのチーム全体が無力だと断言されたように感じて、「やっぱり太刀打ちできないんだろうか……」と不安にならずにいられなかった。
勾留15日目(10月31日)前後の時期、肉体の疲れは耐え難いほどに溜まってきていた。取調べ中に緊張や不安を感じることは相変わらずで、3〜4時間に及ぶ取調べの間に、数回トイレに立つことも珍しくなかった。
ところが、そのころ、取調べ中にトイレに行こうとすると、検事が叱ってきた。
「トイレは開始前に済ませておけって言ったでしょうが! 職員に迷惑をかけるんじゃないよ!」
取調べによる緊張や不安、また溜まった疲労も相まって、取調べの最中に尿意を覚えることは、避けられない生理現象だった。これを制限されるのは非人間的だなあ……と、私は戸惑った。
勾留が15日を過ぎると、自分に変化が生じてきたことに気づいた。これまでなら泣かなかったような出来事にも、ふと涙が出そうになることが増えてきたのだ。
この時期のメモに、「変わったこと①:涙もろくなった」と記している。
勾留19日目(11月4日)、また別の変化に気づいた。
拘置所で3週間も過ごしたことで、拘置所の風景やにおいに違和感を覚えなくなってきた。また、「今日は(取調べがなければ)●時ころにあれをして、★時ころにこれをして……」と、その日に拘置所でする行動を想像できるようになっただけでなく、それらの行動に違和感を覚えず、自然に行おうとしていることに気づいたのだ。
この日、危機感を込めて、次のように記した。
・勾留19日目ともなると、拘置所の生活に非日常感を覚えることが少なくなってきた。恐ろしいことだ
この後、私は、「拘置所での暮らしに気持ちの上で慣れてしまってはいけない。違和感を忘れないようにしなければ」と心がけようとした。それでも、日に日に、拘置所の風景や音、においを普通のものと感じるようになっていくことは、止められなかった。
4 勾留20日目・満期日
勾留20日目(11月5日)、ついに満期日(検察官が勾留後、起訴・不起訴など処分を決める最終日)。おそらく起訴されるだろうとは思っていたものの、朝起きると、さすがに緊張していた。
この日も朝から取調べが行われた。午後の取調べで、検察官から「あなたは間もなく起訴される」と言われた。
覚悟はしていた。この時は、強がり抜きで、ショックは少なかった。
この日の夜、宮村(啓太)先生が接見に来てくれた。
宮村先生は、主任検察官から公判請求したとの電話が別の弁護人にあったことを私に告げた後、繰り返し頷きながら言った。
「頑張ろう。頑張るしかないね。頑張って無罪をとろう」
宮村先生は、同じ発言を繰り返すことはあまりしない方だった。「頑張ろう」と繰り返された時の仕草は、宮村先生自身を励まそうとしているように見えた。「弁護人が自らを励まさなければならないほどに難しい事件なんだ……」と、改めて思った。
【(中)につづく】
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(2024年03月23日公開)