【解説1】 執行猶予中の依頼者にとって、執行猶予が取り消されるか否かは重大な関心事です。判決の確定時期は以下のように整理することができます。
裁判の審級によって違いがあります。
⑴ 第一審判決宣告後については、以下の2つの場合が確定時期です。
① 判決宣告日から15日以内に控訴申立てをしないとき
判決宣告日から判決宣告日を含めて15日経過後に確定します(刑訴法373条、55条1項本文)。刑訴法373条では「十四日以内」と規定されていますが、初日不算入とされる(刑訴法55条1項本文)ことにより、宣告日から15日以内となります。以下同様です。
② 被告人・検察官双方が上訴権を放棄したとき
被告人が上訴権を放棄するだけでは判決は確定せず、検察官の側でも(上訴権の放棄、または判決宣告から控訴しないまま15日が経過することにより)上訴権が失われた時に初めて判決が確定します。被告人が上訴権を放棄し、なおかつ検察官も上訴権を放棄した場合は、上訴権放棄の遅い日に判決が確定します。
なお、上訴権放棄は第一審裁判所に対して書面で行う必要があります(刑訴法359条、360条の3、刑訴規則223条)。もっとも、被告人が刑事施設に勾留されている場合においては、被告人が上訴権放棄の書面を刑事施設の長またはその代理者に差し出したときは、差し出した時点で上訴権を放棄したものとみなされます(刑訴法367条、366条)。
判決が死刑または無期の懲役もしくは禁錮であったときは、上訴権は放棄することができません(刑訴法360条の2)。
また、弁護人の単独名義の書面で上訴権を放棄できるかという点については、明文の規定も判例もなく、学説上も定まっていません。
⑵ つぎに、控訴審判決後については、以下の2つの場合が確定時期です。
① 判決宣告日から15日以内に上告申立て(刑訴法405条)または上告受理申立て(刑訴法406条)をしないとき
判決宣告日から15日経過後に確定します(刑訴法414条、373条、55条1項本文)。
② 上訴権を放棄したとき
第一審判決後と同様です。控訴審判決に対する上訴権放棄は、控訴審裁判所に対して行います。
⑶ 上告審については判決と決定とでは違いがありますので、留意してください。上告審の判決に対しては訂正の申立て(刑訴法415条1項)を、上告審の決定に対しては異議の申立て(刑訴法414条、386条2項、385条2項前段)をすることができます。
(ア) 判決では以下の2つの場合が確定時期です。
① 上告審判決後
判決宣告の日から11日以内に、判決訂正の申立てを行わないとき
上告審判決宣告の日から11日経過後に確定します。刑訴法415条2項では「十日以内」と規定されていますが、初日不算入とされる(刑訴法55条1項本文)ことにより、宣告日から11日以内となります。
② 上告審判決に対する訂正申立てに対する判断後
訂正判決(刑訴法415条1項)又は棄却決定(刑訴法417条1項)の日に確定します(刑訴法418条)。訂正判決に対する再度の訂正申立てや、棄却決定に対する異議申立てはできません(前者につき刑訴法417条2項、後者につき最決昭和33年11月10日刑集12巻15号3511頁)。
(イ) 上告審の決定では、以下の2つの場合が確定時期です。
① 上告審決定後
異議申立てを、上告審決定の告知のあった日から4日以内に行わないとき
上告審決定の告知のあった日から4日経過後に確定します(刑訴法414条、386条2項、385条2項、422条)。刑訴法422条では「三日以内」と規定されていますが、初日不算入とされる(刑訴法55条1項本文)ことにより、宣告日から4日以内となります。
なお、弁護人に上告審決定の告知があった日が被告人に上告審決定の告知があった日よりも遅い場合であっても、異議申立て期間である4日間は被告人に送達された日から起算されます(最決昭和32年5月29日刑集11巻5号1576頁)。また、異議申立て期間の延長はできません(最決平成9年5月27日刑集51巻5号433頁)。
② 上告審決定に対する異議申立てに対する判断後
異議申立てに対する決定の日に確定します。ただし、例えば、最決昭和33年2月4日集刑123号163頁のように、上告趣意書の提出がないとして上告を棄却した原決定に対して異議申立てがされたところ、上告趣意書差出最終日の通知が適法になされていなかったことを理由として原決定が破棄され、その上で改めて上告趣意書差出最終日が指定されたような場合には、上告事件は確定しません。
異議申立てに対する決定に対して再度の異議を申し立てることはできません(異議棄却決定に対する再度の異議について最決昭和35年2月9日集刑132号187頁)。
なお、期間の最終日がいつになるのかについては注意が必要です。各期間の最終日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日、1月2日、1月3日又は12月29日から12月31日までの日(以下「休日等」といいます。)に当たるときは、直後の休日等以外の日が最終日となります(刑訴法55条3項本文)。例えば、ある月の12日が休日等に当たる月曜日で13日が休日等に当たらない火曜日とすると、10日(土)が最終日のときは13日(火)が最終日となりますし、同月12日(月)が最終日のときも13日(火)が最終日となります。
【解説2】 依頼者が気にしている執行猶予の取消しについて、このほど刑法の改正があったため注意が必要です。
2022(令和4)年6月13日に刑法等の一部を改正する法律が可決されました。この改正の対象は多岐にわたりますが、設問との関係では、新設刑法27条2項により、執行猶予期間中に再犯に及んだものの、判決の確定が執行猶予期間満了後であるために前刑の執行を免れるという事態が生じないよう改められる点に注意が必要です。
具体的には、現行法では、執行猶予期間中に再度罪を犯して公訴提起された場合であっても、当該再犯の刑が確定するまでに執行猶予期間が満了すれば、前刑の言渡しの効力は失われます。そのため、本稿のように、再犯の刑が確定する時期というのは被告人の大きな関心事でした。
しかし、改正法では、再犯が執行猶予期間中になされた場合であって当該再犯について前刑の執行猶予期間内に公訴提起されているときには、執行猶予期間は満了しないものとされるようになりました(改正後刑法27条2項前段)。そのため、このときには、再犯の刑の確定が前刑の執行猶予期間満了後であったとしても、再犯について禁錮以上の実刑(一部執行猶予を含む)に処せられたときには、原則として前刑の執行猶予は取り消されます(改正後刑法27条4項本文)。この改正により、改正法の施行後は、いわゆる「弁当切り」((「弁当」とは、執行猶予のこと。「弁当持ち」が猶予期間を満了させることを「弁当切る」、満了できず取り消されてしまうことを「弁当食う」という(下村忠利著『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典』〔現代人文社、2016年〕)。))を目的とした刑の確定時期の引き延ばしは無意味となります。
なお、本改正の施行日は、2022(令和4)年6月17日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日となっており、本稿脱稿時(2023〔令和5〕年4月)時点では施行されていないことにも注意が必要です。
(参照条文 新設の刑法27条2項)
第二七条(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
1 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
2 前項の規定にかかわらず、刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるものに限る。)について公訴の提起がされているときは、同項の刑の言渡しは、当該期間が経過した日から第四項又は第五項の規定によりこの項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しが取り消されることがなくなるまでの間(以下この項及び次項において「効力継続期間」という。)、引き続きその効力を有するものとする。この場合においては、当該刑については、当該効力継続期間はその全部の執行猶予の言渡しがされているものとみなす。
3(以下省略)
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(2023年05月10日公開)