漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第6回 金杉美和弁護士に聞く(2)

常に依頼者のために

一人の人間としてガチでぶつかる


 SBSの判決には腹が立つ

 刑事裁判をやっていて良かったなと思う瞬間は、どんなときですか。

 一番は、やはり依頼者からの感謝ですね。依頼者から見たら結果が一番切実だとは思いますが、先日、出所してきた人がわざわざ電話してくれて、事務所にも挨拶に来てくれました。その人にとって忘れられない弁護士というか、人生の中で出会った忘れられない人みたいな。何かを確実に感じてもらえたなと思うときは、やっていて良かったなと思います。

 反対に、一番腹が立つはどんなときですか。

 裁判官に対してでしょうか。腹の立つ事件はいっぱいありますが、一番と言われてパッと思い浮かぶのはSBS(乳幼児揺さぶられ症候群)です。乳幼児の揺さぶり事件で、控訴審まで無罪を争ったのですが、有罪判決が出たものです(『季刊刑事弁護』94号25〜27頁に詳しく書きましたので、こちらもご覧ください)。

 20歳そこそこの若い被告人で、少年院に入った経験もありました。前科こそありませんが、そういう前歴があったので、「どうせ粗暴で、やってるんでしょう」みたいな偏見を持たれたんだと思います。

 おそらく、被告人が子どもを肩車して倒れたことが原因だと、私は思っています。被告人は、子どもを守ろうと思って、支えたまま倒れたので顔面からいってしまいましたが、子どもは自分の頭の後ろにいたため、子どもはどこにもぶつけていないと思ったのでしょう。

 とりあえず、子どもはベビーベッドに置きましたが、しばらくして気づいたら、子どもの様子がおかしかったという事件です。

 すぐに親族に助けを求め、救急病院に行き、治療を受けましたが、医者から「何かしただろう。揺さぶっただろう」と通報されてしまいました。実際、揺さぶったという認定で大阪高裁で有罪になりましたが、事故だと思います。

 私が腹を立てているのは一審の裁判官で、「そんなことぐらいでは、この傷害は生じない」と専門家も裁判官も言いますが、「大丈夫だったら、自分の子ども(生後6カ月の子ども)を肩車して、実際にこけてみたら?」と心の中で言い続けていました。

 普通に考えても、170センチぐらいの高さから90度の回旋をしてバターンと倒れるわけですから、脳に相当なダメージが加わっています。他の協力医の先生も「これはアクシデントだね。つまり、事件じゃなくて事故」と言ってくれた人もいましたが、法廷に提出できず、そんなことで有罪になったときには一番腹が立ちました。

 確かに、理不尽極まりないですね。

 人間としてガチでぶつかる

 弁護の途中で「この人の弁護したくないな」と思う人はいますか。

 基本的に最後までやりますけど、一審をやって、控訴審はもうやりたくないと思うことはあります。

 その人の問題やその事件とかではなく、

(2022年08月01日公開) 

インタビュイープロフィール
金杉美和

(かなすぎ・みわ)


2004年弁護士登録(京都弁護士会、57期)。京都法律事務所所属。大学時代は体育会航空部の活動に明け暮れた。2児の母。日弁連刑事弁護センター 委員、同法廷技術小委員会委員長(2018年)、京都弁護士会刑事委員会副委員長など、委員会活動にも精力的。東京法廷技術アカデミー(TATA)の講師を務める。2022年4月より京都弁護士会副会長。著書に『まだ気づいていないあなたと語る セキララ憲法』(新日本出版社、2015年)がある。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。現在は『クジャクのダンス、誰が見た?』「Kiss」(講談社)で連載中(2022年9月号〜)。


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