漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第5回 石野百合子弁護士に聞く(1)

「法律家の枠をこえる」弁護士の仕事

非行を犯した少年が、自分と向き合えるように寄り添う


少年事件をやるきっかけ

 少年事件を中心にやろうと思ったきっかけって、何ですか。

 正直、あまりなくて……。司法試験に合格した後、裁判官になったり、検察官になったり、弁護士になったりする前に司法修習が1年間あります。

 その中で、最後に弁護士会が提供する選択の修習プログラムがあり、そこで「子どもの事件ってどうかな」と思って、少年に関わるプログラムを選択しました。あっ、少年事件のとき「少年」と表現しますが、男子少年も女子少年も含めて「少年」です。

 少年事件にもともと興味があったので、「面白そうだな」というところから入り、そのまま弁護士になりました。少年事件を比較的多くやるようになって、今に至るという感じです。

 「面白そうだな」って思ったのは、何か具体的な事件があるんですか。

 修習の中で、家庭裁判所修習があります。修習生は勉強のために入れるのですが、そこで初めて少年審判の審判廷というところに入りました。

 刑事裁判の法廷と違って非公開で、傍聴人がいません。原則検察官はいなくて、かわりに家庭裁判所の調査官がいます。事件が家庭裁判所に来てからは、その調査官が少年の成育過程や非行の原因などを調べ、裁判官は調査官や、少年が少年鑑別所にいた場合には少年鑑別所からの報告もふまえて、審判へ臨むという形になります。

 裁判官と家庭裁判所の調査官、付添人の弁護士、当事者としての少年とその保護者等が出席して審判が進んでいきます。少年事件の少年って、一対一で会うと、私より背の高い少年でも、結構小さく見えるんですよね。うまく言えないんですけど、気が弱いからなのか、所在なさげに座っている少年が多いという印象です。

 それで、その少年がどうして犯罪をするに至ったのかを、裁判官がすごく優しい言葉で丁寧に聞いていくんですね。そういう少年審判の雰囲気の中で、事件について話していくと、泣きじゃくり、「これからしません」みたいなことを言ったりする少年も多いです。

 いわゆる刑事裁判のイメージとは全然違って、教育的な要素が入っていて、この分野をやってみたいと思ったんです。

 幼い印象の少年が多いという話でしたが、みんなそうなんですか。

 もちろん、大人っぽい少年もいますし、完全に悪くなりかけてる少年も一部にはいます。やはり、15歳と17歳、19歳ではイメージが全然違います。グラデーション的には、より大人に近づいていってるという感じです。でも、19歳でも幼い印象ですね。

本当の意味での反省とは

 取材をしたり、本を読んだりすると少年の「可塑性」という言葉が頻繁に出てきますが、私のような一般人からすると、「可塑性」って言われてもイメージしにくいところがあります。

 プロの目から見て、少年は成人と違い「可塑性がある」と言い切れる(感じられる)境界みたいなものはあるのでしょうか。

(2021年10月29日公開) 

インタビュイープロフィール
石野百合子

(いしの・ゆりこ)


埼玉県生まれ、神奈川県育ち。東京大学経済学部経営学科卒業。都市銀行勤務後、早稲田大学大学院法務研究科修了、平成23年弁護士登録。新百合ヶ丘総合法律事務所共同代表。日弁連子どもの権利委員会幹事。『少年事件ビギナーズ ver.2』の編集も務める。地域に根差した弁護士業務を行うかたわら、少年事件や犯罪被害者支援、高齢者障がい者支援なども積極的に行っている。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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