漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第3回 久保有希子弁護士に聞く(2)

常に謙虚であり続ける

どんな話でも決めつけず、受け止める


やりがいを感じる瞬間

 事件を受けるときに、「やりたくないな」と思うことはありますか。

 事件内容でやりたくないと思うことはないですね。例えば、重たい事件か軽い事件かとか、否認事件か認める事件かとか、そういうことで区別することはありません。

 内容に関してはないというのが驚きです。じゃあ、人ではありますか。

 その人の立場などで区別することはないですね。例えば、突然事務所に電話がかかってきて「無償で全部やってください」と言われたら、さすがに難しいでしょうが、一方で単純にお金の問題ということでもありません。刑事事件が好きですし、知人の弁護士から紹介されたり、共同受任を頼まれたりすると、まず受任しています。

 刑事事件に魅力を感じているんですね。弁護士として、やりがいを感じる瞬間はどんなときですか。

 民事でも刑事でも共通していますが、依頼者と信頼関係ができていると感じられたときですかね。

 具体的に、どんなときですか。

 弁護方針を決める場面など、依頼者とは日々コミュニケーションをとらなければなりません。「方針については、弁護士に任せます」というスタンスになることもありますし、「ここは今の主張のままだと受け入れられないよ」といさめる場面もあります。そういう時にきちんとコミュニケーションがとれていると、信頼してもらえているなと感じます。

 あとは、やっぱり弁護活動が終わって、不起訴になったり、身体拘束から解放されたりという結果を出した上で、「頼んでよかったです」と言ってくれる場面にやりがいを感じます。

 依頼者からしたら、本当にありがたいと思います。信頼関係を結ぶために、意識してやっていることはありますか。

 先ほどの話のくり返しになりますが、依頼者の話を無碍(むげ)に否定したりしないようにしています。あり得ないと思われるような話だとしても、そんなことが起こるかもしれないというスタンスで臨み、話をいったん聞いて受け止めます。

 その上で、どういうふうに依頼者の言い分を裁判所に出すのがいいのか。それをそのまま全部出すのが、依頼者にとって本当にプラスになるのか。証拠も踏まえて考えますが、まずはいったん全部を受け止めて考えます。言いなりになるのとは全然違い、話を単純に、私の勝手な価値観とか主観だけで判断しないようにすることです。

 荒唐無稽な弁解を聞くことは、やはり多いですか。

(2021年06月28日公開) 

インタビュイープロフィール
久保有希子

(くぼ・ゆきこ)


2007年弁護士登録。日弁連刑事弁護センター事務局次長。共著書として、日弁連裁判員本部編『裁判員裁判の量刑』(現代人文社、2012年)、『刑事弁護ビギナーズver.2.1』(現代人文社、2014年)、日弁連刑事弁護センター編『裁判員裁判の量刑Ⅱ』(現代人文社、2017年)、科学的証拠に関する刑事弁護研究会編『刑事弁護人のための科学的証拠入門』(現代人文社、2018年)など。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


こちらの記事もおすすめ