漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第2回 市川寛弁護士に聞く

検察の手の内を知る弁護士

信念と客観性のバランスをとる(2)


私にとっての少年事件

 『イチケイのカラス』の監修をしてくださった片田(真志)先生は、「少年事件のほうがやりがいがある」みたいなことを言われています。市川先生もそう思いますか。

 僕は、数はそんなにこなしていませんが、検察官時代から少年は変化の度合いがダイナミックだなとは感じます。

 ダイナミック……。

 それだけ純真なのでしょうね。どうかすると、損得勘定に敏感という意味でも純真な可能性があります。早く出られる、あるいは何かが自分に有利になるという理由で変化している。このように動機が邪悪な可能性もゼロではありませんが、少年はほんのわずかな間に顔つきががらっと変わります。

 検察官をやっていたとき、勾留して1週間後ぐらいにもう1回取調べをしたら、顔つきが変わっていたことがあって、ビックリしました。言うことも変わっているのです。短い間に立派になってるなって。

 使う言葉も違うんですか。

 そうです。自分で考えたのか、親などが教えたのかは知りませんが、ビックリしたことがありました。だから、その少年が言ったことをきちんと調書に取ってあげました。まさに反省した証拠を残してあげないと、かわいそうですから。

 ただ、少なくない少年が、処分を終えて、少年院から出てしばらく経つと戻ってきてしまう。少年事件はやりがいがあると言われますが、裏切られる度合いも大きい気がします。

 また戻ってきてしまうんですか……。

 僕の経験では多いですね。「またですか」と思うことはあります。

 それは、ご自身のダメージになってしまいますか。

 無力感はありますよね。刑事弁護をやっている人は、無力感といつも背中合わせのはずです。

 それは、検察官の無力感とは別ですか。

(2021年04月26日公開) 

インタビュイープロフィール
市川寛

(いちかわ・ひろし)


1965年、神奈川県生まれ。中央大学卒。1990年に司法試験(第45期)に合格し、1993年検事任官。2000年から佐賀地検に三席検事として勤務し、佐賀市農協背任事件の主任検事を務める。同事件の被疑者に不当な取調べを行ったことについて法廷で証言し、大きく報道される。その後、被告人は無罪となった。2005年に辞職し、2007年弁護士登録。
 著書に『検事失格』(毎日新聞社、2012年)、『ナリ検』(日本評論社、2020年)などがある。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


こちらの記事もおすすめ