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第5回山本衛弁護士に聞く

専門的な知識を弱い人のために使いたい

刑事弁護からスポーツ法務まで


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3 法曹を目指した理由

――山本さんが法曹を目指した理由、特に弁護士を希望した理由をお聞かせください。

山本 最初はそんなに強い思いがあったわけではなくて、何となく自分は会社に入って働くよりは、「専門的な知識を生かして、誰かのためになりたい」、「弱い人のために力を使いたい」という漠然とした思いがありました。それで法学部に入学して、何となく法律を勉強して、法科大学院に入れたらいいなぐらいの感じでいました。

――弱い者のために力になりたいというのは、どんな理由からですか。

山本 強い者が、力で弱い者を虐げるということが一番許せないと思っていました。法律は、弱い人の強い武器になるから、法律を使える職業になることが、弱い人を助けることの一番の近道ではないかと思いました。

――東京ディフェンダー法律事務所に入られて、特に刑事弁護を中心にされていたようですが、刑事弁護に興味を持った契機は何ですか。

山本 契機はロースクール(法科大学院)です。刑事法にはもともと関心がありました。ただ、関心があったと言っても、面白いなぐらいの程度でしたが、ロースクールで学んでいる中で、刑事手続で一番弱い人が虐げられている、法律がきちんと権利を定めているのに、裁判実務や判例がそうなっていないことのに一番矛盾を感じて、刑事法に興味が湧いてきました。刑事法では後藤昭先生の指導を受けましたが、その授業がとても面白かった。後藤先生のゼミに入ったのですが、実際の事件を手伝わせてもらう「クリニック」という授業をしており、そこが一番最初の刑事弁護人との出会いの場でした。
 刑事弁護人は、誰も味方がいない被疑者・被告人のために闘うという思いを強く持ってやっているので、その熱い思いに感動して、刑事弁護人を目指すようになりました。

――その授業では、弁護人のお手伝いとして、実際の事件の調査などをやったんですか。

山本 そうです。

――そうすると、実際の事件に最初から当たっているから、法曹になってからもこの仕事にあまり違和感はなったのですか。

山本 法曹になる前から、意識して刑事弁護フォーラムのゼミや、北千住パブリック法律事務所の勉強会で刑事弁護の実務家に触れる機会があったから、修習中も含めて、実務に出たときの違和感はほぼなかったです。

――では、自然に刑事弁護の世界に入れたという感じですね。

山本 はい。

――そうはいっても、刑事弁護の中で、一番苦労するのはどういう点ですか。

山本 しんどいのは、裁判所から不合理な有罪判決を受けるときです。無実かどうかは神様にしか分からないけれども、有罪の証拠が薄いのに有罪判決が出るので、それが一番許しがたいし、本当に心が折れそうになります。

4 被疑者・被告人とのコミュニケーションの取り方

――被疑者・被告人とのコミュニケーションを取ることでは、あまり気になることはありませんか。

山本 最初の1年目では、被疑者・被告人とのコミュニケーションの取り方を迷ったり、自分は本当に被疑者・被告人のためにベストな弁護活動をできているのかという自問から精神的に苦しい時期もありましたが、今現在、ほぼそこの悩みはあまりありません。また、被疑者・被告人と信頼関係が築けないなと思うことも少ないですね。
 これは私選弁護が多いことに関係もあるかも知れません。私自身は、多少依頼人に恵まれているところがあると思います。

――私選と国選の割合はどのくらいですか。

山本 今はほぼ私選です。国選弁護もありますが、裁判員裁判だけです。非裁判員裁判の国選弁護は、今は受けていません。

――私選がたくさん来るのは珍しいことだと思いますが、どういうルートで来るんですか。

山本 幸いにも、刑事弁護の仲間から信頼してもらっていれば、「一緒にやろうぜ」という形で来きます。また、過去の依頼人の紹介などいろいろなルートがあります。比較的多いのが、刑事弁護をあまりやっていない弁護士からの紹介です。僕は、今、スポーツ法務にすごく力を入れていますが、スポーツ関係の弁護士から、「ちょっと刑事のことを聞きたい。じゃあ、一緒に受任してくれないか」みたいなことで来た事件もあります。

5 黙秘権について

――被疑者・被告人の関係に戻りますが、特に黙秘権については、それを貫くことは日本人の感覚からするとなかなか難しいと思います。刑事弁護では「黙秘は原則だ」ということですが、被疑者・被告人に黙秘権をどう説明していますか。その点で、気を付けていることはありますか。

山本 それを全部話すと30分くらいの講義になってしまいそうです。僕自身は、黙秘させることに失敗したことはなくて、黙秘させられないという感覚はあまりないのですが、そのうえで自分が注意している点を言うと、できるかぎりたくさん接見に行くことです。
 黙秘をすることが被疑者・被告人にとって最善であることを僕は分かっているので、それを優しくかみ砕いて説明して、本人も黙秘することが最善だと理解すれば、そんなに難しいことではないです。それを理解させるまでに多少時間は使うので、最初の3日間くらいは集中して接見に行きます。小手先のテクニックはたくさんありますが、依頼人の性格によっても変えています。

――こういうのを説得する材料にするというのはありますか。

山本 大体弁護士が行ったときは、取調べを既に受けています。取調べは厳しくされているものもあれば、優しく味方をしてくれる感じのものもありますが、その人が受けている取調べの状況がいろいろあります。その人が持っている疑問、例えば自分の言っていることを主張しないと刑事に分かってもらえないのではないかとか、あるいは、単純に黙秘していることが一般的な感覚からすると不利になるのではないかとか、そういう不安要素を被疑者から聞き出して、既に受けている取調べの状況と不安要素を組み合わせてベストなアドバイスをするよう心掛けています。
 例えば、すごく厳しい取調べを受けている事案では、証拠がないので、刑事は被疑者の供述がすごく欲しいんだ、それで、「自白」をとろうと厳しく追及しているんだから、それに応じて供述するメリットはないでしょうと、説明します。
 すごく優しく来ている事案で、黙秘したら刑事の態度が変わって、「きみのためなんだよ」とか言ってくることもあるけれど、それだったら釈放すればいいわけです。それができないということは、あなたのことを本当に思っているわけではないでしょうと説得します。
 本人が抱えている個別の状況を無視して、一般的に、刑事弁護の本にはこう書いてあるからこうしようみたいな黙秘の説得の仕方は失敗すると思います。間違った方向からアドバイスをすると、逆の不安を生んでしまうので、そういうことを一番気にしています。

――弁護士になって何年目ですか。

山本 9年目です。

――その中で、特にこの弁護は印象に残ったという事件はありますか。

山本 たくさんあるので、1個に絞れないですね。いま一審有罪で、控訴審で無罪を主張している事件がありますが、今一番力を入れている刑事事件はそれですね。これで有罪になってはまずい事件です。ですので、力を入れています。

(2020年11月28日公開) 

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