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第1回遠山大輔弁護士に聞く

刑事弁護が性に合っている

先人たちの知恵と努力の継承

京都の法律事務所にて。2018年12月3日


自己実現ができた裁判員裁判

——話が変わりますが、平成になって刑事司法制度が大きく改革されています。その中でも、弁護士に影響を一番与えたのは裁判員裁判だと思います。遠山さんは、その裁判員裁判について、どのように思っていますか。

遠山 そのこととの関係で言うと、私にとっては、京都弁護士会の辻孝司先生の影響大きいと思います。辻先生には、裁判員裁判を一つのチャンスと捉えていて、ビジネスチャンスと言ってしまえば簡単ですが、これで他の人に差をつけられるという思いがありました。辻先生はアメリカの弁護士のように、日本の弁護士も法廷で市民を前にしてきちんと弁論ができることを示さないといけないと、プレゼンテーション研究会を早めに始めたわけです。辻先生からは、ピンチをチャンスと捉える発想の転換というか、ポジティブな考え方をいろいろ学びました。

また、大学生のとき、アメリカ映画『評決のとき』(1996年)をみたときのことを思い出します。娘がレイプされて、お父さんがその犯人を猟銃で撃ってしまい、そのお父さんの弁護人を引き受けた弁護士の映画ですが、あの格好いい最終弁論を見て、私もそうしたいとずっと思っていました。個人的に言うと、裁判員裁判で自己実現ができる法廷が現実になるのではないかと期待していました。

——それは裁判員裁判では実際に実現していますか。

遠山 何件か、手応えがあったなという弁論はあります。手応えがあったというのは、法廷の雰囲気で分かるんです。例えば大阪の事件だったら、若い男の裁判員が最初は肘を突いて斜めになって弁論を聞いているわけですが、それがだんだんと真っすぐになってきて、のめりになってくるんです。その弁論では、相弁護人から、「検察官の口がだんだん開いてきてた」と聞きました。

——では、今の裁判員裁判には特に問題はないと考えているのでしょうか。

遠山 いやいや、問題は山盛りです。私が好きだっていうだけで、「いい制度ですか」と聞かれたら、「完全ではありません」としか答えようがないですね。

——どういう点を改善したほうがいいのでしょうか。

遠山 これは裁判員裁判に限ったことではないですが、証拠の全面開示は大前提ですね。あとは、裁判員裁判のおかげで検察官の立場が相対的に弱くなってきて、裁判官が文字どおり中立になったんです。それ自体は歓迎すべきことですが、その裁判官の発言が強くなり過ぎていると思います。彼らが裁判員裁判に慣れたことで、自分らは能力も高いし、社会的常識も備えていたんだみたいな勘違いが始まっているという危惧があります。

だから、私は、裁判員裁判の評議の中で裁判員が何もためらうことなく、裁判官に対して向かっていけるような勇気づけをする弁護をしたいとずっと思っています。裁判員が入ったことの意味を弁護人が持たせられるかどうかということです。「制度が悪い」と言うのは簡単なんですが、悪い中でどうするかということを考えないといけないんです。裁判員を活かす、より良い結論が出るように、間違いが起きないように活かすことを追求していきたいと思っています。

——刑事司法の課題として、先ほどおしゃった全面証拠開示のほかに何かありますか。

遠山 再審のときの全面証拠開示です。あとは、勾留裁判の弾劾化です。捜査段階で弁護人が早いうちからどう関わっていくか。勾留裁判で検察官の意見に対して弁護側が十分反論できるようにならないと駄目だと思います。取調ベへの立会いも大きなミッションです。

減少する刑事事件数の影響

——今、刑事事件数が減っていますが、それによって弁護活動に影響はありますか。

遠山 全体に日本中で事件数が減っています。それのせいかどうかわかりませんが、こんなんでどうして逮捕したのかなと疑問をもつケースがあります。たとえば、夫婦ゲンカでケガをさせていたら逮捕とか。昔は絶対にしなかったものです。警察が事件数を確保するために、こうした逮捕事件が増えているのかなと思ってしまいます。

朝日新聞のコラムに書いていますが(2018年10月26日付朝刊、京都府・2地方面)、1年半前の正月、元旦にとある店舗で前の客が置き忘れた数千円のお釣りを盗んだという事件がありました。1年半前ですよ。それが防犯カメラでばっちり映っていた。被疑者は会社に勤務していて、部長とか何とかの肩書きも持っている。持ち家も持っている。家族がいて、まじめに仕事している。ところが、警察は会社までわざわざ逮捕しに行くんです。こういうのは在宅でやれる事件です。共犯者がるわけでもなし、言い逃れが利くわけでもない。ですから、結局警察はすぐに釈放しました。

——今度の日産のカルロス・ゴーン前会長の件もそうですが、逮捕を許可するのは裁判所です。逮捕状の審査ということ自体は、裁判所では難しいんですか。

遠山 裁判官も「これは在宅でやれないの?」っていう感覚を当然持ってはいるとは思うんですが、それを私たち弁護士が顕在化させないといけないです。「これ、在宅でやれるじゃないですか」と言う人が横にいたら、もう1回真剣に見直すと思うんです。

だから、逮捕段階からの弁護活動は大事だと思います。10日、20日間勾留されると解雇とか退学になったりとか、被疑者が受けるダメージが在宅とは全然違います。最初の勝負が大事だと思います。もっとも逃げる人なんかほとんどいないはずなんですけどね。

(2019年02月04日公開) 


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