call4 stories

第11回

[CALL4プロジェクト]と、CALL4代表・谷口太規のストーリー

公共訴訟はあなたの身近にある。「話すことから始めよう」


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アメリカで学んだ2つのこと

 谷口はアメリカから帰国した翌年、CALL4の活動を始めている。私は話を進め、留学の影響は大きかったのかを質問した。すると、あっけらかんとした言葉が返ってきた。

 「『あ、サボってたな』って思ったんですよ」

 そして、間を置いてこう続けた。

 「僕は弁護士になって2回、過労で肺炎を起こして入院しました。フル回転で、働き続けた結果です。自分なりに頑張っていたつもり、変革に邁進してきたつもりでいました。

 一例を挙げれば、刑事弁護をよくやっていたので、警察に面会に行くんですね。移動に1時間くらいかけて警察へ行って、30分待たされて、30分会って、また1時間かけて帰ってくる。3時間のうち、30分しか弁護士として時間を使っていないから、とても非効率です。でも、被告人にとっては会いにきてくれるのは自分しかいない、だからどんなに苦しくても会いに行こうと思っていたし、周囲にも、『歯食いしばっても会いにいけ』と言っていたんです」

 「けれど、」と谷口はさらに続ける。

 「それが留学したら、アメリカではワンクリックでビデオ接見をしていた。もちろん、最初から制度が用意されていたわけではない。訴訟をしながら、より効率的な制度を勝ち取ってきた結果なわけです。

 『僕らはそういう戦い方をしてきたのか』と考えましたね。地べたを這いつくばるような努力はしてきたけれども、それが大変だから頑張った気になっていただけで、ゲームチェンジをするために必要なことを考えてこなかった、そう思ったんです」

 「アメリカに行ったときに、もう一つ影響を受けたことがあります」

 さらに谷口は、当時のエピソードを語る。

 「日本の裁判官は、法廷ではほとんど喋らないんですよ。ペンペンって叩いても動かないんじゃないかっていうくらいの時もあります(笑)。そして、最高裁が当事者の意見を聞く弁論の場が開かれるということはもう、これまでと結論が変わると決まっている。つまり、結論の決まった後に本人の話を聞くんです。

 ところが、ある日に傍聴したミシガン州の最高裁は全く違った。裁判官がものすごく喋るんです。その時は全盲の裁判官だったんですが、弁論の途中で、「ちょっと、ちょっと待って」と割り入る。「僕はこの前、友人のパーティに呼ばれて行って、教えられた番地のアドレスに行って、ノックをしたんだけど誰もいなかったので、友人の名前を呼びながら玄関の中に入って、しばらくして中庭でそこの家の人に呼び止められた。実はアドレスには同じ住所でサウスとノースがあって、自分は別の家にいたってそこで気付いたんだけれど、この場合の侵入って、どこから始まったと思う?」と聞くわけです。まさに住居侵入罪がどの時点から始まるかが、その裁判の論点でした。

 その時に感じたのは、真に正しい結論にたどり着きたい、という熱意。保守的と言われる裁判官もリベラルと言われる裁判官もいるけれど、『今の社会に必要な結論は何なのか』を、ディスカッションを通して決めていく。法廷の場は、本来そういう場であるべきだと強く思ったんです」

日常生活と訴訟はつながっている

 「今の話を聞いて、ぜひ裁判を傍聴したいと思いました」と伝えると、谷口は嬉しそうな様子でこう返した。

 「そう、裁判は遠くの誰かのものではなく、私たち一人ひとりの日常にあるものなんです。

 例えば、2019年5月に東京地裁で違憲判決を勝ち獲った、『海外でも国民審査を訴訟』。私も原告の一人でしたが、中にはブラジル在住の主婦もいました。彼女は、投票用紙を間違って配ったというニュースが流れてきた時、『間違いだとしても配れるということは、本来投票できるということなのに、できないのはおかしいんじゃないか』という違和感から、声を上げた。3歳児を連れて法廷で意見陳述もしています」

「海外でも国民審査を訴訟」原告団と弁護団

 誰かが声を上げることで変わる、その社会に私たちは共に住んでいる。

 「先日、友人であり、CALL4のフォトグラファーである神宮が、取材の隙間に彼の子供の問題を話してくれました。『今、子供が外で辛い目にあっているから、相手の保護者と話をして状況を変えようと思うんだよ』と。私は『面倒なことをやるね』と返した。すると、『いや、CALL4の取材に行くうちに、俺もちゃんと声を上げなきゃって思ってね』なんて言うんです。

 それがすごくいいなぁって。大それたことじゃなくていい、些細な行動の変化こそ、一番意味あることなんだと思えました」

 身近な“自分ごと”として想像できると、私にも何か出来るんじゃないか、そんな気持ちが湧いてくる。CALL4のストーリー記事も、そんな原告や支援者の個の想いを掬い上げている。

 「社会課題と思われているものは、身近な暮らしや、誰かの尊厳から生まれている。訴訟や裁判になると、急に別世界になったかのように見えるけれど、出発点はみんなが個々に持っているものから始まるんだ、と理解して欲しくてストーリーを立ち上げました。ぜひ多くの方に読んでもらえたらと思っています」

CALL4ポータルサイト(https://www.call4.jp)

 最後に、「CALL4を今後、どのようにしていきたいとお考えですか」と私は訊いた。「綿密な計画があるわけではないんですけど」と前置きしつつ、「もっとオープンにしていきたいですね」と谷口は笑った。

 「誰かがCALL4のサイトを訪れて、訴訟に興味を持てたり、発見があったり。その人自身の変革を少しでも助けることができたなら、それは大きな意味で、ミッション成功だと思うんです」

 そして、こう続けた。

 「誰もが社会を良くするということに衒(てら)いがある、ということなんだと思うんです。9.11の後にみんなが黙ったのも、きっとそう言うことだったんだと思います。何が正解なのか分からないから、と」

 私は頷いて、では私たちはどうしたら変わっていけるのでしょう、と問いかけた。すると少し笑いながら、谷口はこう答えた。

 「もっといい加減でいいんですよ。社会課題に関してだけ、すごく潔癖になる必要はない。『私、黄色より緑色の方が好きかな』くらいの感じで話していいんです。そうしないと、『とことん自分が正しいことじゃないと、何も言ってはいけない』となってしまう。それは違いますよね」

 それでは、ほぼ全員が沈黙してしまう。そして、何も変わらない。

 「そう。だから、もっと気軽にソーシャルチェンジに参加していいって思うんです」

 谷口の背中の向こうに、緑が広がっていた。自分の気持ちを話す、誰かの声に耳を傾ける。ディスカッションの場で生まれるものを信じて、ちょっといい加減に、一歩を踏み出す。

「CALL4プロジェクト」への寄付を受け付けております。みなさまのご支援お待ちしております。

(2021年08月27日) CALL4より転載

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