1 2025年の年明けからのめまぐるしい動き
早いもので、2025年の年明けから2カ月余りが経過しましたが、再審法改正をめぐるこの間の情勢の変化は、これまでにないめまぐるしさを見せています。あまりにもさまざまな出来事が次々と展開されるため、状況が分かりづらいと当惑している人も多いのではないでしょうか。
そこで、この間の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(会長:柴山昌彦。以下、「超党派議連」と略す)と法務省の動きを整理しつつ、今後の課題について言及したいと思います。
2 加速する超党派議連の活動
2025年1月24日、本年度の通常国会(第217回国会)が開幕しました。その1日前である1月23日、NHKニュース「おはよう日本」で、再審法改正を目指す超党派の議員連盟が再審制度の見直しに向けて本格的に検討を始めることになったと報じられました[1]。「本格的に検討へ」という見出しだけでは、このニュースがどのような重みをもつのかピンと来ないかもしれません。実は、このニュースの終わり近くで「あすからの通常国会に議員立法で法案提出 法改正目指すことに」というテロップが画面に表示されたところが核心なのです。
これまで超党派議連は再審法改正について、「議員立法も選択肢の一つ」とか「議員立法も視野に入れて検討する」といった表現を用いており、議員立法で法案を提出する方針を明示したことはありませんでした。それが、このニュースでは、「議員連盟は、実務者で内容が合意できれば、24日からの通常国会に議員立法で法案を提出し、法改正を目指すことにしています」と明確に報じられたのです。
そして1月28日、超党派議連の「第1回実務者協議会」が開催されました[2]。かねてから再審法改正に積極的にかかわってきた国会議員10名(自民、立民から各2名ずつ、公明、国民、維新、共産、社民、れいわから各1名ずつ)が出席し、そこで「刑事訴訟法の一部を改正する法律案(仮称)骨子たたき台(案)」が提示されました。これは議連が関係者へのヒアリングや台湾での法改正の経緯などを学び、最優先で改正すべき項目を絞って、衆議院法制局とともに作成したものです。
この「骨子たたき台(案)」には、議員立法として提出する法案の項目として、以下の4項目が挙げられています。
第一 再審請求審における証拠の開示命令
第二 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止
第三 再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避
第四 再審請求審における手続規定の整備
まず、「第一」の証拠開示については、再審請求人等から検察官が保管する証拠について開示の請求があった場合、①再審の請求が不適法であるとき又は再審の請求に理由がないことが明らかなときを除き、②当該開示の必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮して相当と認めるときには、裁判所は証拠の開示を命じなければならないとする、再審請求人側からの請求による裁判所の義務的証拠開示命令が定められています。また、再審請求人等からの請求がない場合でも、前記②の場合であれば、裁判所の職権で証拠開示を命じることができることも確認的に規定されました。
「第二」の再審開始決定に対する検察官の不服申立てについては、審級や名称(通常抗告、即時抗告、異議申立て、特別抗告)のいかんにかかわらず、例外なく禁止するという案が示されました。
「第三」については、確定審の有罪判決に関与した裁判官は、再審請求審、再審公判の審理に加わることができない(除斥・忌避の対象となる)とされました。当初、数次にわたる再審事件の過去の再審請求に関与した裁判官も対象とする案が検討されていましたが、同一人が間を置かず繰り返し再審請求を行う事例もあり、小規模庁では対応ができなくなるという裁判所からの指摘を受け、確定審に関与した裁判官のみが除斥・忌避の対象となった経緯があります。
「第四」については、再審請求審における裁判所の期日指定権、訴訟指揮権を定め、期日調書の作成義務も明記されました。また、再審請求が職権主義の手続であることとの整合性という観点から、検察官の期日への出席を認めるか否かは裁判所の裁量に委ねるとされました。
実務者協議会ではこの骨子たたき台のうち、特に「第一」すなわち証拠開示の規定について活発な議論が交わされました。2月5日に催された第2回実務者協議会でも議論が続けられ、証拠開示の対象を「検察官が保管する証拠」に限定せず、警察に保管されている証拠等も開示すべきだとの意見が出された結果、対象を「公務員が職務上現に保管し、検察官において入手が容易なものを含む」と拡大することや、「証拠」そのものだけでなく、そのリスト(目録)も含めて開示させるべきとの意見から、開示の対象を「証拠等」とすることなどが、たたき台に盛り込まれることになりました。
3 まだまだ高い議員立法へのハードル
上記のような実務者での議論を経て、超党派議連は2月26日、衆議院の解散総選挙によるメンバーの変動後初となる議連総会を開催、「骨子たたき台」をもとに法案作成を進めることと、その法案を今国会に議員立法として提出することが全会一致で承認されました[3]。
ここまで来ると、議員立法による再審法改正は目前のように見えるかもしれません。しかし、法改正の実現までにはまだまだ超えなければならないハードルがいくつもあるのです。
一つは、超党派の議員による法案提出の場合、提出にあたり議員が所属する各党の承認を得る「党内手続」をクリアしなければ、国会での採決にあたり党議拘束をかけられないことになっています。この党内手続をすべての政党が迅速に終えることができるかが、さしあたっての課題となります。
また、今年は夏に参議院選挙が行われるため、通常国会の会期延長がありません。党内手続を終えてめでたく法案を国会に上程できたとしても、6月23日の会期末までに法案を成立させるためには、今国会提出法案の中で早い順番で審議日程が回ってこなければなりません。予算成立後はまず閣法(内閣提出法案)から審議されるため、後半国会の日程はタイトになることが予想されます。
さらに、何より重要なのは、今の「骨子たたき台」から具体的な改正法案に仕上げるプロセスです。条文化の過程であるべき法改正の内容から漏れや後退が生じたり、超党派議連内での対立で法案化が遅れたりしないよう、国民世論の不断の監視が必要です。
4 自民党勉強会の「提言書」
さて、国会議員の中で、議員立法による今国会での再審法改正という「超党派議連ルート」とは異なる動きもありました。
超党派議連の第1回実務者協議会の翌日にあたる1月29日、自民党の議員などによる「再審法に関する勉強会」(顧問:麻生太郎、世話人:世耕弘成。以下、「自民党勉強会」と略す)が、鈴木馨祐法務大臣に再審法改正に関する「提言書」を提出しました[4]。突如登場したように見える「自民党勉強会」とは何か、なぜこのタイミングで法務大臣に「提言書」を提出したのか、続きは次回で解説します。
*3月25日(火)12:00~13:30(開場11:30)、日本弁護士連合会主催で「今国会での再審法改正の実現を求める院内会議」を開催。【申込期限:2025年3月19日(水)】
https://www.nichibenren.or.jp/event/year/2025/250325.html
【関連記事:連載「再審法改正へGO!」】
・第20回 最高検の「検証結果報告書」を検証する(下)
・第19回 最高検の「検証結果報告書」を検証する(上)
・第18回 再審法改正で大きな動き 法務省の方針は「議員立法潰し」
注/用語解説 [ + ]
(2025年03月12日公開)